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そもそもMT派が主張してきたメリットは時代遅れ?

 先に断っておきたいのは、「MT派が長年主張してきたメリットは、ATの性能が向上した現在では通用しなくなっている」ということだ。

 たとえば性能面についてである。動力伝達のロスが大きかったかつてのAT車と比べれば、変速を手動で行うMTの方が燃費・加速において有利であった。「機械よりも正確に操れる」というのはMT乗りにとって大きなアイデンティティであり、そこにある種の「職人的なカッコよさ」を見いだすこともできただろう。

 けれどもATの性能が向上した現在では、そうした優位性は主張できなくなっている。熟練したMTドライバーであってもATの加速を上回ることはできず、燃費面でも明確な差をつけることができなくなった。CVT(無段変速機)をATの一種と見なすなら、むしろ燃費もATの方が優れているとさえいえるだろう。

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©iStock.com

「車としての性能を引き出す」という点において、機械を上回ることができなくなった今、MT乗りは「わざわざ面倒な操作をして加速や燃費を悪化させる酔狂な人間」と見なされてもおかしくないわけである。

スポーツカーにもMT設定がなくなる時代

 性能面におけるメリットを潰されたMT派は、もはや「趣味性」という最後の砦に立て籠もるほかない。けれどもその砦も、MT設定のないスポーツカーが増加するにつれ、徐々に崩されていくことになる。

往年の名車GT-Rも現在はATのみの設定となっている(日産公式Webサイトより)

 GT-RやNSX、スープラと、レースで名をはせた往年の名車たちも今ではことごとく「ATのみ」の設定だ。「運転の楽しさ」が魅力であるはずのスポーツカーにすらMT設定がなくなっているという事実は、「運転を楽しむならMT一択」というMT派の拠り所を奪ってしまっているのである。

 もちろん、ロードスターや86などMTが主流の車種はまだまだ存在しているし、上記の高額なスポーツカーと比べれば、気軽に性能を楽しめるという魅力がある。けれども、「高額なスポーツカーほどMTがなくなる」という傾向があることもまた一つの事実だ。