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「それ、アドリブじゃないよね。演技でしょ」野田秀樹・高橋一生がネットニュースに覚える違和感

NODA・MAP『フェイクスピア』対談

2021/03/14
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言ってしまえば、映像での動きはぜんぶアドリブなんですが…

高橋 そうですね。けれど、大きくくくられてネットニュースなどで「俳優のアドリブ」だと言われてしまうんです。僕は、お芝居をやってる人以外の人にそれを説明したところでわかってもらえないと思うので、説明することを諦めているのですが。

 そのような考えでいくと、僕にとっては映像での動きはぜんぶアドリブになってしまうんです。台本に書いてあるのは、ほぼセリフだけで、細かい動きの指示はありません。

 本番前に、まず「ドライ」というリハーサルをやるんですが、そこで、立ち止まったり、窓際まで歩いて行ったりするという動きは、ほとんどが俳優の考えに任されることが多いですし、僕は提案として最初にやります。

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野田 そうだよね。僕は映像の世界のことは詳しくないけれど、舞台における「アドリブ」は、稽古で決めたこと以外のことを本番で即興的にやることだよね。

 

 稽古場で、まだ演技が確定していないときに、俳優が自由に動きを試すことはとてもいいと思うし、それが定着していけば、それはもう「アドリブ」じゃなくなるから、俳優はそれをさも「アドリブ」のように毎回やる。それがまさに「演技」だよね。つまり、いちばんいい演技とは「アドリブ」に見えることなんだよね。

高橋 そうですね。

動きの「動機」を自ら考えるのは俳優の仕事

野田 芝居がいかにナチュラルに見えるか、僕らはそのために稽古を重ねているわけですから。でも、僕が『新選組!』で勝海舟を演じたときは、リハーサルで僕のやった動きはすべて却下された(笑)。

 勝海舟がほしかった本を手にいれてそれを受け取ったとき、嬉しくて本をめくろうとしたら、そういうリアクションはいいですからすぐに背後に置いてくださいと言われて、え~、ほしかった本が手に入ったらまず見るでしょ?って思った(笑)。

高橋 そういうふうにバキバキに動きを固められる現場もあります。反対に、自由にやらせてもらえる現場はありがたいです。これまでわりとそういう現場が多くて、僕は恵まれていました。

野田 まあ舞台でも、ここで軽く振り返るとか、ここまで何歩で動く、という制約のある演出をやってるところもまだあるからね。

高橋 はい。けれど、ここからここまで動いてと言われたとき、「なぜここからここまで動かないといけないんですか?」と俳優はあまり質問するべきではないと僕は思うんです。

野田 質問しないってこと?

高橋 質問するまでもなく、自分で考えることだと思っているので。

野田 まずは、自分で動機を探すってことだよね。

高橋 それも俳優の仕事だと思います。

 

野田 そうそう。どうしても言われたところに行けないと思ったら、そういうときはね、虫とか探しゃあいいんだよ。

高橋 はい(笑)。

野田 台本に虫とかいっさい出てこないけれど、関係ないよ(笑)。そういう想像力が俳優には必要なんだよな。

高橋 必要だと思います。厳密にいったらそれは「アドリブ」ではなくて、俳優なら当たり前にやっていることだと思います。