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「それ、アドリブじゃないよね。演技でしょ」野田秀樹・高橋一生がネットニュースに覚える違和感

NODA・MAP『フェイクスピア』対談

2021/03/14
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新作はどんな舞台になるのか? いいお芝居とは

ーーお金をはじめとして、俳優の価値を数値に置き換えることも必要でしょうか。

野田 それはそうじゃない? 僕がお芝居をはじめた70、80年代頃は、演劇は食えないものの代名詞で、いまみたいに舞台を中心に活動している役者さんが容易にテレビや映画の仕事をできませんでした。いまでも、テレビや映画に出ることは大変だろうとは思うけれど、とりわけ舞台をやっている人間に映像の仕事はまわってこなかった。

 そうなると、芝居だけで食べていきたいと志をもった役者は、なにがなんでも演劇で収入を得る必要があるわけです。芸術のためならお金は関係ないという考え方もあるとはいえ、結局は生活の問題に行き着く気がします。

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 だからこそ、コロナ禍によって劇場が経済的に落ち込むことは非常につらいことだし、かんたんに補償の可能性を諦めたり譲ったりしてはいけない。我々に自粛を要求するならば、その分、補償をちゃんと出してくださいと劇場は主張すべきだと思う。

高橋 海外の知り合いに聞くと、不要不急の外出は控えてと言われたうえで、生きる最低限のことは約束されていたりする国が多いですね。「外には出られないけれどその日のご飯はあるよ」にしないと、「外に出るな、ご飯はない」だとDVですから。そういうことが大事だと思います。 

 

 

ーー野田さんにとっては今回の新作はコロナ禍以降ではじめて書く新作になります。今、感じる問題がテーマになるのでしょうか。

野田 いや、極力、我関せずなものを書いているつもりです。僕のなかではまだ状況を作品にするほどに至っていないから、書くとしてもコロナが通り過ぎてからでしょうね。コロナについて何か書くことよりも、当たり前だけれど、まずおもしろいものをつくりたいと思います。

 今年に入って再び緊急事態宣言が出て、劇場では客席を半分にすることをはじめ、さまざまな感染対策を行っていて、観劇環境はけっして快適とはいえません。それでもお客さんが、公演を見ている間だけでもコロナのことを忘れることができるとすれば、そういう芝居こそがいい芝居です。まずはそういうものを目指したいですね。

 

高橋 楽しいのがいちばんだと思います。芸術やエンターテインメントが不要不急であると思われがちですけれど、楽しいといわれる感覚、ひいては文化といわれるものは必要不可欠だと思うんです。そこをぜんぶ切ってしまうと、それを言い出した人たちこそ、自分の首を絞めてしまうのではないかと。

 この1年間、ほんとにそういう楽しいことを諦めて、がんじがらめの世界に陥っている人たちが増えた気がしていて。そう思うのは、ぼくが文化のひとつであるエンターテインメントを仕事にさせてもらっているからというわけではなくて、引いた目で見ても、文化は不要不急ではないと思います。