ネットではジャニーズの覇権は機能しない
ジャニーズは地上波テレビを中心とした国内のメディア状況にアジャストして覇権を強めてきたが、2010年代はスマートフォンとSNS、そして映像・音楽のネットメディアのさらなる浸透によってレガシーメディアは完全に相対化された。YouTube、Netflix、Amazonプライム、Disney+、Hulu、ABEMA、Spotify、Apple Music等々、エンタテインメントを取り巻くメディア空間はこの5年ほどで激変した。
多くの男性グループの誕生も、この多様なメディア状況があるからこそだ。主戦場は、もはや地上波テレビや雑誌などではなくYouTubeやSNSだ。音楽で言えば、単価の高いCDを国内の熱心なファンに売ることよりも、YouTubeやストリーミングサービスを通じてグローバルに音楽を届けることが必要とされる。K-POPが率先してやってきたのは、まさにこうしたことだ。
しかし、ネットではジャニーズの覇権は機能しないどころか、2018年頃まで真剣に取り組まなかったためにいまだに後塵を拝している。競争を排除してまでドメスティックなマーケットに過剰適応し、典型的なガラパゴス化に陥って国際競争力を失った。
公取委がジャニーズを「注意」したのは、こうした状況を重く見たためでもある。「競争法」とも呼ばれる独禁法は、各業界におけるプレイヤーが健全に競い合うことを監視する法律だ。競争を排除しようとしたジャニーズの支配体制は、明確にそれに反していた。
「破壊的イノベーション」に足を踏み出せなかった
そんなジャニーズは、現在きわめて大きな困難に直面している。創業者姉弟の退場もあったが、新たな時代への適応に右往左往しているように見える。
その混迷は、典型的な「イノベーションのジレンマ」と言える。国内市場に準拠した「持続的イノベーション」に注力した結果、K-POPがやってきたようなグローバルな市場を大きく変化させる「破壊的イノベーション」に足を踏み出せなかったからだ。
それは、10年以上前に日本の家電や携帯電話メーカーが通った道でもある。
たとえば00年代前半まで優れた技術で液晶テレビの世界をリードしてきたシャープは、韓国のサムスンやLGにあっという間に逆転され、挙げ句に台湾・鴻海(ホンハイ)に買収された。現在の世界シェアは、サムスンとLGに次いでソニーがかろうじて3位に入り、それをハイセンスなどの中国メーカーが猛追している状況だ。