奨学金を機関保証で満額借りて大学へ通うことも、母親は当初、断固として認めなかった。高校3年生の夏、「あんたが働いてくれないとこの家はどうなるの? 生きていけないよ」と私を責める母親の言葉に罪悪感を覚えながら、大学進学を許可してもらう条件として「借りた奨学金から学費を差し引いた分は、実家の生活費として使ってくれていい」と説得し、なんとか進学するに至った。
しかしそのあと、母親は私が実家のある神戸から電車で1時間ほどの大阪の大学へ通おうとしていることがわかると、「どうして神戸から外へ出ようとするのか? 神戸にある大学に通え」と再び抗議し始めた。結局、その反対を押し切って大学を卒業した後、就職と同時に実家から逃げるように家を出た私のことを、母親は現在に至るまでずっと許していないようだ。
共依存の親子を描いた映画『MOTHER マザー』
「あれはあたしが産んだ子なの。あたしの分身。舐めるようにしてずっと育ててきたの」
2020年7月に公開された大森立嗣監督の映画『MOTHER マザー』に登場する母親・秋子(長澤まさみ)と、その長男・周平(奥平大兼)の関係性はまさしく「共依存」そのものだった。
あまりにもリアルな描写だったため、映画を観た後に作品の情報を調べると、原案は毎日新聞記者・山寺香による『誰もボクを見ていない: なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか』であり、2014年に発生した「埼玉・川口祖父母殺害事件」を題材に撮られた映画であることがわかった。
息子に異常なまでの執着を見せる母親、そして自分にとって絶対的な存在である母親からの期待に応えようとする息子の関係性は、それがどれだけ病的なものであっても、第三者が介入して簡単に壊せるものではない。事実、この母子は路上生活していたところを一度は保護されていたものの、その後、再びセーフティネットから離れて経済的に困窮、母親から祖父母を殺害して金を奪ってくるよう指示された少年が、事件を引き起こしてしまった。
映画の中では、母親の生育環境について詳しく触れられておらず、なぜ子どもにそこまで依存・支配するに至ったかもわからない。
しかし、母親にとって子どもが「無条件に自分を求め、肯定し、必要としてくれる存在」であり、そんな拠り所である存在が自分の元から離れていかないように外界との接触をすべて絶たせようとするのは、支配したい側の母親からすれば、自然に芽生える欲求であるように思う。