1ページ目から読む
3/3ページ目

 しかし、組長の行方が分からなくなったことについて、実際に拉致されたと判断した警視庁が捜査を始めた。このため組長らは計画を断念して逃走していた。誘拐偽装の際に、事情を知らない女性を監禁していたことも判明し、組長らは2カ月後に監禁致傷容疑で逮捕された。

 事件が起きた1995年はバブルが崩壊して暴力団業界も台所事情が苦しくなっていたことと、暴力団対策法が施行されたばかりで、繁華街などからのみかじめ料の徴収が規制され始めた時期だ。自らの指を詰めることでカネを得ようとした苦肉の策の誘拐偽装だったとみられる。

「指詰めはさせない」という暴力団幹部も

 左手の小指を詰めた経験がある首都圏で活動している指定暴力団の古参幹部が現状について述べる。

ADVERTISEMENT

「最近は不始末があっても、指を詰めることは少ない。頭を丸めて『坊主にしましたので勘弁して下さい』という程度のことが多い。『最近の若い衆は……』などと言うつもりはないが、昔は『その程度で?』というような理由で指を詰めていた。指が何本もないヤクザも珍しくなかった」

 そもそも若い衆には指詰めをさせないという暴力団組長もいる。関西地方を拠点として活動している指定暴力団幹部は、「自分の指はすべてそろっているし、若い衆に不始末があっても『指を落とせ』と言うことはまずない。若い衆に不始末があった場合は違う方法でけじめをつけさせる」と話す。

「シノギで何の役にも立たない」と指詰めをさせない幹部も(写真はイメージ) ©iStock.com

 この幹部は、「指詰め」の現状について、次のように打ち明ける。

「指がない親分の場合は、若い衆に不祥事があったときは何でも、『指を詰めて持って来い』となることが多い。指を落としてけじめをつけてきた親分は、指を落とすことが当然と考えている。こうした親分の組織では、若い衆も指を落としている者が多い」

 さらに次のように付け加えた。

「もし若い衆から『おわびとして指を落として持って行きます』と言われても、『結構だ。迷惑だからやめてくれ』ということになるだろう。指を落としてもカタギとのシノギ(資金獲得活動)などで何の役にも立たない」

 暴力団業界の伝統として根強く残っている指詰めをめぐる考え方も多様なようだ。

(肩書、年齢は当時)