文春オンライン

2021/07/02

撮影で使ったタコが、そのままスタッフの夕食に……

 この大ダコ、本物のタコを特撮セットに放して撮影するという驚異のアナログ手法で撮られており、それも海外の観客の琴線に触れたのかもしれない。海外の特撮映画でも本物のトカゲやワニを恐竜に見立て、特撮のミニチュアセットに放して撮影した作品は存在するものの、タコ嫌いの外国人には“本物のタコを使う”ことなど夢にも思わないのだろう。当時タコは海外では“デビルフィッシュ”という不名誉なあだなまで付けられ、忌み嫌われていたとか。その苦手っぷりが窺い知れよう。

円谷英二監督とゴジラ ©文藝春秋

 後に円谷英二の後を継いで『ゴジラ対ヘドラ』(’71年)などで特技監督を務めた中野昭慶さんによれば「とにかく、タコが言うことを聞いてくれなくって大変だったね」とのこと(「そりゃそうでしょう」としか言い様がないが)。中野さんは『妖星ゴラス』('62年)に続いて、この『キングコング対ゴジラ』の特技・円谷組への参加となったのだが、いきなりのビッグスター(=タコ)の演出補佐に付くことになり、「こりゃまいったな」と思われたそう。むべなるかな。タコを海水入りのバケツから出して、海岸沿いの岩場に組み立てた島民の木造住宅とヤシの木が並ぶミニチュアセットに置いた途端、動かなくなる。いくら棒で突いても、怒って墨を吹き出す始末。

 すっかり困った挙げ句、熱した鉄の棒(焼火ばし?)を近づけてみたところ、熱さを嫌がって動き出した。そうして赤い鉄棒を近づけては動かし動かしして徐々に撮影していったという。ようやく撮影が終わったその夜、円谷監督や中野さんたちが旅館に戻ると、待っていたのはタコ料理のフルコース。撮影で使った大量のタコがそのまま夕食に。いくらタコとはいえ、つい先ほどまでの主役スター。さすがにそれを食べるのは……と、円谷監督も中野さんたちスタッフも苦笑したそうだが、結局は美味しくいただいたとか。ある意味、獲物をムダにしない、昔ながらの日本人の美徳といえよう。