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 入国後の行動ガイドラインも曖昧で、とりわけホテルの問題は深刻だ。

 組織委員会が当初指定していたメディアホテルの部屋はまったく足りておらず、記者たちは各自でホテルを予約していた。組織委員会からは3月下旬に宿泊先を問い合わせる連絡が来たので回答したが、そのホテルで大丈夫なのか、それとも変更が必要なのかについては一切連絡がなかった。

 そして2カ月ほどが経った5月末、次のような連絡が一方的に届いた。

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「新しいメディアホテルのリストを送るので、予約済みのホテルをキャンセルしてメディアホテルに宿泊するように」

写真はイメージです ©iStock.com

 その時点で開会式まで2カ月を切っており、支払い済みの人もいたためメディア側の反発は大きく、後に組織委員会から「キャンセル料がかかる場合は組織委員会が負担します」という条件とともに、リーズナブルな金額の部屋を紹介するという連絡が届いた。

 しかし実際にホテルのリストが届いたのは、変更の指示からさらに2週間が経った6月半ばで、しかもごく普通のビジネスホテルが1万6000円~というかなりの割高設定だった。

 コロナ前に指定されていたメディアホテルを予約サイトでみると、オリンピック期間中でも6000円くらいで予約可能だ。インバウンドの観光客が減少しており、ホテルの料金は軒並み低くなっている状況で、なぜ1万6000円という値段設定になったのだろうか。

 食事場所の指示も厳しい。メディアはホテル・メディアセンター、競技会場のどこかで食事を取ることを推奨されているが、肝心の「どこで何が食べられるのか」という情報がまったくない。デリバリーも認められているが、英語に対応しているサイトの紹介もなく、ルールは作ったものの運用が詰められていない場面が多い。

取材体制はアメリカの予選以下

 肝心の選手取材体制も、お世辞にも褒められたものではない。不満を口にするのはジャマイカ紙の記者だ。

「これまでは事前合宿や選手村などで選手や関係者に直接話を聞いて記事に反映したが、選手のSNSと試合の結果だけでは深い記事を書くのは難しい。ミックスゾーンも大会が始まったら壊滅状態になるんじゃないかと心配だ」

 海外に留まって取材活動を続けることを決意したジャーナリストたちも、組織委員会の決断の遅さにいらだっている。

「リモート取材が可能だと思って人数削減に応じたのに、そういったケアはない。2月に記者証を返上してホテルもキャンセルしたが、ホテルの料金すらまだ返金されていない」

 ちなみに6月中旬に行われたオリンピック陸上競技のアメリカ代表選考会では、会場となったオレゴン大学でジャーナリズム学を教えるロリ・ションツ教授が陣頭指揮を執り、12人の学生が8台のPCを駆使してリモート取材用のミックスゾーンを整備していた。

写真はイメージです ©iStock.com

 記者がチャットで送った質問に選手が答えるシステムで、コロナ禍の取材活動を大いに助けてくれた。現場にいない記者もアクセス権があり、世界中から自由に質問できたほか、インタビュー映像がすぐにアップロードされて発言の確認も簡単だった。記者たちが「すばらしい」と絶賛するほどの体制を、いち大学が整備したのだ。

 ションツ教授は来年オレゴン大学で開催される世界陸上でもメディアスタッフとなって記者たちをサポートする予定だ。このように、世界大会を開催するための準備を時間をかけて築き上げている都市もある。

 しかし東京オリンピックでは、リモート取材についての案内はなく、ミックスゾーンでの対面取材がほとんどになる見込みだ。現場での取材を諦めた海外記者が情報を得る方法はほとんどない。

 参加選手やチームは、現状、対面取材の有無など知らされていない。もし開始後に不満が出た場合に完全リモートに切り替えられるような準備は必要なのではないだろうか。