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エンパシーを「闇落ち」させないために

藤原 そこには恐らくケアの根源も宿ってるんですね。自分自身をケアして生きていく、他人をケアして生きていく、この混じり合いが一番楽しいのに、私たちはしばしば“ブルシット・ジョブ”のなかに絡め取られて自分自身を生きられなくなってしまう。ブレイディさんが警鐘を鳴らすように、自分が自分でなくなってしまうとエンパシーは利用され、「闇落ち」してしまう。

 逆にいうと、搾取されないためにエンパシーはカオスである必要がある。食べることも寝ることも生きることも、すべてが帰っていく土壌世界のように――。

ブレイディ まさしくエンパシーは、アナーキーというカオスを取り込んだ「アナーキック・エンパシー」でなければならないんですよね。今日は、地べたから靴を履いて出発したエンパシーをめぐる思索の旅が、地べたの「土」に帰着するんだと気づかされました(笑)。刺激的なお話をありがとうございました。

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藤原 こちらこそ本当に面白かったです。ありがとうございました。 

ブレイディみかこ

1965年福岡県福岡市生まれ。96年から英国ブライトン在住。ライター、コラムニスト。2017年、『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』で新潮ドキュメント賞、19年『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』でYahoo!ニュース|本屋大賞2019年ノンフィクション本大賞、毎日出版文化賞特別賞などを受賞。他の著書に『労働者階級の反乱』『女たちのテロル』『ワイルドサイドをほっつき歩け』『ブロークン・ブリテンに聞け』などがある。

他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ

ブレイディ みかこ

文藝春秋

2021年6月25日 発売

藤原辰史

1976年北海道旭川市生まれ。歴史学者、京都大学人文科学研究所准教授。東京大学大学院農学生命科学研究科講師等を経て、現職。専攻は、農業史、食の思想史、ドイツ現代史。『ナチスのキッチン』で河合隼雄学芸賞、『分解の哲学 ― 腐敗と発酵をめぐる思考』でサントリー学芸賞を受賞。他の著書に、『トラクターの世界史―人類の歴史を変えた「鉄の馬」たち』『戦争と農業』『給食の歴史』『農の原理の史的研究:「農学栄えて農業亡ぶ」再考』などがある。