コロナ前と現在で、だてマスク依存者はどう変わったのか。菊本さんは次のように分析する。
「意外かもしれませんが、私はこれまでのだてマスク依存者は、コロナ禍の少し前から減ってきたように思っています。
というのは、私が本を上梓した2011年頃、だてマスク依存者は一般社会では“変人”、“精神的に弱い奴”という扱いでした。ところがその後の10年で、『自分と違う人の事情も理解しよう』という空気が、世間に少しずつ醸成されてきました。これは、鬱やADHD、社交不安、HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン:非常に敏感で繊細な気質の人)などを公表する人が増えたことと関係すると考えています。周囲の人々がだてマスク依存者に対して、以前よりやさしくなったのです。
そこで、対人恐怖気味だっただてマスク依存者の不安が減り、マスクをはずせるようになった、という例が複数ありました」
「ノーマスク時代」におびえる人たち
では、コロナ禍で新たに浮かんできたマスク依存者は、どのような人々なのだろうか。
「指摘されている新規マスク依存者は、大多数が“ウイルスの恐怖感から逃れたい”人たちでしょう。これはコロナ禍の先行きが見えない現状では当然の心理で、コロナ禍が収まれば自然と減るはずです。
一方で、マスク依存とまではいえなくても、『コロナが収まったあと、“ノーマスク”になるのが怖い』という人が、一定数出てくるように思います。だてマスク依存者は外出する際、鍵をかけるのと同じように、当然の習慣としてマスクをつけて家を出ます。それがコロナ禍で、マスクは国民全体の外出習慣となり、全世代が“マスクで得られる安心感”を知ってしまった。特に女性にとっては、マスクをつけると『メイクをしなくてもいいから楽』という付加価値も生むため、ノーマスクへの抵抗感は大きいかもしれません」
当てはまる? だてマスク依存症の “予備軍チェック”
実際にノーマスク時代の到来を恐れる人の声を紹介しよう。中部地方在住の40代女性・Aさんはこう話す。
「口元には個性が出るので、自分の口元を見られるのも、他人の口元を見たりクチャクチャ音を聞くのも嫌です。本当はマスクの上にサングラスもしたいくらいの気分。コロナ禍でマスクが奇異でなくなりホッとしているのが実情です」
ノーマスクを怖がる人は、だてマスク依存症の “予備軍”といってもいいだろう。菊本さんは「だてマスク依存症になりやすい人」として、以下の項目を挙げる。
・社会恐怖や場面緘黙(かんもく・家などでは普通に話せるのに、学校や職場など、特定の場所では話せなくなってしまう症状)があるなど、自己開示が苦手な人
・個性を求められるのが辛く、周りに埋没したい人
・自分に劣等感や、根拠のない罪悪感を抱えている人
・周囲と関わることを面倒に感じる人
・自分はセンシティブな人間だと思っている人
「私は特に、『自分はセンシティブだと思っている人』という項目に注目しています」と菊本さんは話す。