かつては実際に「司法への挑戦」ともとれる事件も…
ただ、工藤会をめぐっては、直接的な暴力が行使されたことはなかったが、過去には司法への挑戦とも受け取られかねない威迫行為が実際に行われたことがあった。
男性を日本刀で刺して殺そうとしたとして起訴された工藤会系幹部の殺人未遂事件の裁判員裁判の初公判が2016年5月に開かれ、公判終了後に工藤会系元組員ら2人が審理にあたった一般市民の裁判員2人に声をかけていたことが後に明らかになった。
福岡地裁小倉支部近くの路上で裁判員に、「あんたらの顔は覚えとるけんね」「よろしくね」「もうある程度、刑は決まっとるやろ」などと話しかけていた。
こうした行為は殺人未遂罪に問われた工藤会系幹部に対して有利な判決を出すよう、裁判員に対する威迫にあたるとして、福岡地裁は福岡県警に元組員らを告発した。裁判員を脅す行為は、刑事司法に市民感覚を生かすために始まった裁判員制度の根幹を揺るがしかねない事態だった。福岡県警は2016年7月、声をかけた元組員らを裁判員法違反容疑で逮捕した。2009年の裁判員制度導入以来、同法違反容疑での逮捕は初となった。
この事件を受けて、当時、官房長官だった菅義偉は記者会見で、「厳正に対応することが(裁判員制度定着の)環境整備につながる」と強制捜査に乗り出した福岡県警の対応を評価。さらに、「裁判員になった国民に過剰な負担を負わせることなく、公平、的確な判断をしてもらうことが極めて重要だ」との考えを示した。
政府高官が暴力団に関してコメントすることは異例のことだった。異例な発言がなされたのは、国が推進してきた裁判員裁判制度が定着し始めたところで発生した初の事件だったこともあってのこととされた。
裁判員を威迫した事件後、工藤会だけでなく暴力団が関与した多くの事件の審理では、全国的に一般市民が参加する裁判員裁判から除外され、プロの職業裁判官だけでの審理が進められるようになった。この流れが定着しているのが実態だ。(敬称略)(#3に続く)