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「言いたくない」犯人の記憶に眠る真相

 主に再生に取り組んだのは、大沢橋での記憶です。まず、隣に青い服が見えた。これは実際に彩香ちゃんの事件当時の着衣と同じ色です。そして、おもちゃを手に持った彩香ちゃんと一緒に、橋の欄干の隙間から首を出して、下を覗き込む光景が見えたという。コマを進めると、おもちゃが落ちてしまい、取ろうとした彩香ちゃんの体に、右手を伸ばして触れたと。途端に、鈴香受刑囚は「言えない」「言いたくない」と泣き出し、後は全く喋れず、自分の体も支えられない状態になりました。心の葛藤が体の痛みやマヒなどとして現れる「転換性障害」であり、これは警察の取り調べ中にも頻繁に起きていたものです。

畠山受刑者が自らつくった娘の捜索を訴える「知りませんか?」のチラシ ©時事通信社

 空想が混入する場合があるので、再生した記憶が全て事実かどうかは別問題です。しかし、彩香ちゃんの死体検案書の添付写真を見ただけでも、大沢橋から転落して遺体発見場所まで石ころだらけの浅場を流されたという調書は、整合性がなさ過ぎる。靴も脱げていなければ、服には傷も藻の付着もありません。記憶の再生は、2回目を終えた時点で弁護士から要請があり、続行が不可能になりましたが、「言いたくない」記憶に真相が潜んでいるのは間違いないでしょう。

採用が見送られた「性格鑑定書」

 状況分析や接見を経て総合的に考えた仮説ですが、何らかの原因で死なせてしまった彩香ちゃんを隠していた鈴香受刑囚が、発見場所まで運んだのではないでしょうか。

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 実際、彩香ちゃん失踪の翌日、午前11時に県警のヘリコプターが通って捜索した同じポイントで、その1時間半後に遺体は見つかっています。大沢橋に彩香ちゃんを連れて行ったことはあっても、事件とは直接関係はないと思っています。

 今回の事件では、刑事裁判が真実を明らかにする場ではないことを痛感しました。2審の高裁も、私が作成した性格鑑定書を一時は採用するとしながら、検察の不同意に押し切られて採用を見送った。これだけ注目された事件でも真相を闇に葬ったまま司法手続きが完了したことが、それを裏付けています。

 母性が本能ではなく生育環境で身に着いていくのと同じように、生まれついての犯罪者など存在しません。この事件は、それを証明する大きなチャンスだったのです。