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「あえて手作業でやっている、というよりは…」

 ベース車両をバラしたら、ボディを組む工程へ移っていく。流れ作業ではなく、ひとつひとつの工程に、一人の職人が時間をかけて向き合う形である。

 たとえば溶接工程においては、「点溶接を連続させる」という工法が取られる。通常の溶接を連続的に行うと、薄い鉄板に歪みが生じてしまう可能性があるため、点ごとに細かく溶接箇所を刻んでいくことでリスクを回避しているという。

ビュートのボディを「点溶接」によって接合する

 さらに、開口部や接合部の立て付けのチェックである。大手メーカーであれば、それぞれの部品はプレスされた規格品であり、「チリが合うか」という点に気を遣う必要もない。しかし全工程が手作業であれば当然、規格品と同じようにはいかない。チェックも職人の目で入念に行う必要があるのだ。

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「ヒミコ」のトランク部分の立て付けをチェック

 このような手作業の積み重ねにより、光岡の自動車は規格品というよりも「一点物」としての性質を帯びることになる。精度の面では規格品に譲るものの、手作業ならではの希少性がコアな客層にとって魅力になっている面もあるのだろう。

 光岡自動車はこうした「クラフトマンシップ」をひとつの身上としているが、一方でそれは「手作業絶対主義」のようなものを意味するわけではない。青木氏は次のように話す。

「あえて手作業でやっている、というよりは、台数が少ないからそうなっている、という方が適切かもしれません。結果として、手作りの温かみ、みたいなものが感じられて嬉しい、というお客様もいらっしゃいます」

 市場規模と生産規模を考えた時に、もっとも適した形が手作業による小規模生産であり、それが希少性という価値にもつながっている、ということになるだろう。

企画段階で素材も念頭に

 企画段階においては、生産台数にある程度の目処をつけながら、それに合わせて素材や工程を勘案し、実現可能なデザインに落とし込んでいく必要がある。

 小規模生産において、高いデザイン性を実現するのに適した素材が「FRP(強化繊維プラスチック)」である。ガラス繊維に樹脂を含浸させることで、固まってパネルになり、ボディパーツとして利用できる。

FRPのガラス繊維。これがボディパーツの元となる
FRPで成形されたビュートのフロントフェイス。複雑で彫りの深い造形も可能に

「FRPは軽くて柔軟性、剛性があり、大きな船でも使われる素材です。デザインの自由度も高く、鉄板が表現できない深い形も作れます。自分たちで型から作れますので、デザイン性を重視した少量生産に向いているんですね」(青木氏)