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「未だに日本が世界一だと勝手に考えているだけなのです…」中国に移住した“サラリーマン漫画家”が語る“日本漫画界”のリアルな現状

『架僑 中国を第二の故郷にした日本人』より #1

2022/03/02
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中国に来た理由

「こんなに有名な大学だって知っていました?」

「いや、全く知りませんでした。当時は中国に対する知識はほとんどゼロで、言葉もニイハオぐらいしか知りませんでしたから」

「ここで講師をしただけで、なぜ中国に住みたいと思うようになったのですか?」

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「実は当時、私は長年付き合っていた彼女に振られ、父を病気で亡くし、描いた漫画もパッとせず、人生に行き詰まっていました。そんな中、この北京電影学院で講義をし、中国の学生の熱気に刺激され、眠っていた何かが活性化しました。さらに講義を終えた後、校舎の廊下に展示されていた卒業生たちの卒業作品を見た時に、あまりのレベルの高さとその創造力に衝撃を受けて、『ああ、私は彼らと一緒に作品を作りたい』と思うようになったのです」

 不思議な話だが、彼は初めての中国での旅の途中、自分が中国の仲間たちと一緒に漫画を描いているイメージが、はっきりと脳の中に浮かび上がったという。

 そのような浅野さんの思いを見透かしたのかどうか分からないが、日本に帰ってしばらく経った頃、恩師である大塚氏に「北京外国語大学が日本語教師を募集している、興味はあるか?」と誘われた。浅野さんは迷わず応募し、中国行きを決めた。

 当時、中国行きを周りの友人に相談すると、「なんで中国?」という反応がほとんどだったそうだ。その言葉の裏には「日本より漫画レベルの低い中国に行ってどうするの?」という意味が含まれていた、と浅野さんは言う。

 彼が中国に来た理由は、自分の人生が行き詰まっていたこと、中国の若者の創造力、この二つが大きいが、もう一つ理由がある。それは、日本の漫画に限界を感じていたことだ。

何を言っても売れない作家の遠吠えにしかならない

「私は売れっ子漫画家ではないので、偉そうなことは言えません。だけど、未だに古い成功体験にとらわれ、変わろうとしない日本の漫画界には失望していました。『ジャンプ』や『マガジン』などの漫画雑誌や単行本が売れていたのは遠い昔で、今や発行部数は下がる一方で、漫画家への原稿料も下がる一方です。今では、原稿料1ページ8000円の漫画雑誌もたくさんあります。丸1日、2日をかけて1ページ描いて8000円しかもらえないのであれば、漫画家は食べていけません。

 それでも、日本の漫画は世界で売れたという成功体験から抜け出せず、現実から目を背けているような気がするのです。私は有名漫画家ではないので、何を言っても売れない作家の遠吠えにしかならないと思いますが」

 日本に見切りをつけて、2015年に中国に引っ越して来た浅野さんは、最初の3年は北京外国語大学で日本語を教える傍ら、漫画を描いていた。

 そして2018年、友人の紹介で現在の会社の社長から誘われ、サラリーマン漫画家になった。

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