「日本の漫画が世界一」とは限らない
「無料で配信しているのでは、ビジネスが成り立たないのではないですか」
「我々の漫画制作部は、簡単に言えば先行投資の部門です。会社は、漫画だけで儲けようとは考えていません。本社には映画・ドラマ制作部があり、お金儲けは彼らがやります。中国でも漫画原作のドラマや映画が増えている今、自社で漫画制作部を持てば、莫大なお金を払って他から映画化権を買う必要はありません。
キャラクターグッズ販売やイベント展開も、容易にできます。漫画は、作家一人と編集者一人がいれば作ることができる、最もコストが低いIP制作の方法だ、と会社は考えているのです。
極端な話、100個漫画を描いて1個当たれば、十分に元が取れるという考えです」
この会社のビジネスモデルを聞いて、実に中国人らしい考え方だと思った。有料の漫画を描いて、小さく確実に儲けることもできるだろう。だが、それでは中国全土には広がらない。ならば無料で配信し、人気が出た作品のメディアミックスを行うことで大きく儲ける。「大きく投資して、大きく儲ける」のが主流の中国ビジネスならではの発想だ。
私が浅野さんに「日中の漫画ビジネスの違いは何ですか?」と聞くと、浅野さんは急に熱く語り出した。
「日本の漫画界は今、完全にガラパゴス化しています。このネット時代に、未だに漫画雑誌を売るビジネスモデルから抜け出せていない。電子書籍化しているだけで、基本は昔と何ら変わっていません。漫画雑誌が隆盛を極めた、30年前の成功体験から抜け出せていないのです」
日本全体のガラパゴス化
「作品の質も、未だに日本が世界一だと思っている人が日本人の中には大勢いますが、私はそうは思いません。もちろん、日本の漫画で面白い、素晴らしい作品はたくさんあります。しかし、中国漫画の質は日進月歩で進化しており、既に日本を超える作品もたくさん出てきています。日本人が外国の漫画を知らずに、日本漫画が世界最高峰だと勝手に考えているだけなのです」
私も大いに同意するところがある。私も日本と中国の映像業界に身を置いてきたので、映像制作の技術レベルに関していうと、日本は既に多くの部分で中国に超されていると思う。中国が撮る映像は今、物凄く美しくてカッコいい。特撮、CG技術も日本より凄いと感じる。ところが、多くの日本の映像制作者はそれを知らず、日本の映像はまだ世界的にレベルが高いと思っている。
おそらくこれは、全ての業界に当てはまる現象なのではないか。日本全体がガラパゴス化しているのは間違いないだろう。ただ、ガラパゴス化=悪という単純な話ではない。独自の文化が滅ぼされずに残っているということは、外国人から見ると非常に魅力的なところもあるということで、悪い面だけではないからだ。