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発達障害の子供2人を虐待した30代シングルマザー「子供たちの顔にアザがくっきりと…」 児童相談所が“子供たちの見守り機能”を失ったワケ

発達障害の子供2人を虐待した30代シングルマザー「子供たちの顔にアザがくっきりと…」 児童相談所が“子供たちの見守り機能”を失ったワケ

『ルポ 自助2020- ――頼りにならないこの国で』より #2

2022/03/06
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 江戸川区児童相談所で児童福祉司として子供たちと接している白田有香里は言う。

「子供たちの中には学校では何も言わないのに、共育プラザみたいなところに来て初めて性的虐待を受けていたことを告白したりする子もいるんです。どういう場所が心の支えになっているのか、どこで心を開くのかというのは、子供によってぜんぜんちがう。だからいろんな公共施設も民間の施設も、いろんなところが門を開いていなければならないのですが、実際は多くが休業に追い込まれてしまった。一部の子供たちにとって、それがどれほどのストレスだったのかはかり知れません」

 子供の中には、虐待をする親を前にしただけで緊張と恐怖で全身が凍りついて動かなくなってしまう子もいるという。そんな子供たちが学校や上記のような施設といった拠り所を失えば、心の負担はいかばかりか。

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コロナ禍における家出や妊娠相談の急増

 コロナ禍における中高生世代の子供たちの身に起きた問題の1つが、家出や妊娠相談の急増だった。劣悪な家庭環境に閉じ込められた彼らの一部が、そこから逃げ出すように家出をしたのだ。だが、彼らには自立するだけの経済力がないし、かといって住所不定のままで安定したアルバイトが見つかるわけもない。そんな状態で繁華街をさまよっている最中に、売春や性犯罪に巻き込まれる子もいた。

©iStock.com

 これを象徴するように新宿区では、1回目の緊急事態宣言が発令されて以降、ハイリスク妊婦からの相談件数が急増した。中でも特定妊婦(出産前から支援を必要とする女性)に関する相談のうちの約55%が、友人宅、ホテル、漫画喫茶などを転々とする住所不定の女性だったことが明らかになっている。

 このような中で、児童相談所はどのように動いているのか。上坂は言う。

「児相は“最後の砦”なので休むことはありませんが、コロナ禍でいろいろと制限がかかっているのも事実です。在宅勤務や勤務時間の短縮によって親と直接会う機会が減ったり、親に『コロナが怖いから来ないでくれ』と断られたりといったことがありました。

 それでも、私たちとしてはできることをしていかなければなりません。要対協(要保護児童対策地域協議会)が持っている名簿をもとに電話をかけて近状を聞いたり、児相のLINE・IDのビデオ通話で各家庭とつながって様子を見せてもらったりしています。ビデオ通話をつかえば、画面越しに室内を見られるので、電話やメールよりは家庭内の状況を把握することが可能になります」

 若い世代の親たちからすると、LINEでのやりとりの方が逆に敷居が下がるので受け入れてくれる人も多いそうだ。

 ちなみに、LINEのビデオ通話など新しい取り組みは、児童相談所が東京都の所管だった時より、区に変わった後の方が手続きが簡略化されてやりやすくなったという。学校への連絡なども同様だそうだ。

 白田は言う。

「区と児童相談所の本格的な連携はまだまだこれからですが、今でも可能性はたくさん見えています。たとえば、江戸川区には『KODOMOごはん便』や『おうち食堂』といった事業があります。コロナ禍の前からあったもので、緊急事態宣言後も継続することにしました。いずれも、区の食事支援事業で、単に子供たちに食事を提供するだけでなく、そこを入り口に見守りや相談へとつなげていく機能を持ち合わせています。そこで何かあった時に児相が入っていけるようになっているのです」

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