ウクライナ危機において、ロシアの軍事行動に理解をしめす中国の対外政策に改めて注目が集まる中、2020年11月から駐豪州大使をつとめる山上信吾氏が3月10日発売の「文藝春秋」に対中政策に関する論考を寄稿。山上氏は論文で、中国に経済的利益を求めるだけだった豪州がいかにして変わったかを分析し、日本の対中政策の転換を提言している。
〈かつての豪州にあっては、左派政治家、旧世代の外交当局者、中国との石炭・鉄鉱石貿易等に携わってきた財界人を中心として、ナイーブで柔弱な対中認識が主流であった。ところが、情報機関の働きによって、国家安全保障を損なうような中国からの投資に光があてられ、国会議員をはじめとする要人への不当な浸透工作が暴露されてきた。その結果、「与党のみならず野党労働党、一般国民の間にも、中国に対する警戒感が広がった。この5年間で豪州の対中認識は一変(sea change)した」と言われるほどになったのである〉
そこに追い打ちをかけたのが、中国による貿易制限措置だった。
豪州にとって中国は輸出額の30%超を占める最大の貿易相手国。その関係に亀裂が入ったのは、豪州が5Gからのファーウェイの排除や新型コロナの国際調査を呼びかけたためだ。烈火のごとく反発した中国は、大麦、ワイン、石炭など、豪州の主な輸出品目に対し、貿易制限措置を次々講じた。
こうした豪中関係の変化から、中国に経済的に依存する日本が得られる教訓として、情報機関の重要性を挙げる。
〈目の前の相手との関係の維持・改善に注力しがちな外交当局とは別に、中国の動態、性向を冷徹に把握、分析、警戒する人間が必要となる。対外情報庁であり、対内防諜担当機関である。