ともあれ、重症化率が低いオミクロン株でもロングコビッドと呼ばれる後遺症に苦しむ人が多いようなので、警戒を緩めるわけにはいきません。感染者の誰もが後遺症を患うわけではありませんが、症状は長期に渡り治療法も確立されていないため、運が悪いと、平穏な日常が奪われてしまいかねません。
コロナ感染症は災害時並みに亡くなった人が増えた
新型コロナウイルス感染症は、2020年以降、日本でも感染拡大し、多くの方が亡くなりました。感染症は自然災害だとはいえ、科学的に適切な対応をすることで、犠牲を最小限に抑えることはできたはずです。
しかし、残念なことに、感染拡大初期から約2年間に渡る政府や自治体の感染拡大防止対策や医療対策の多くは、科学的妥当性に欠けた場当たり的な施策でした。その意味で、2021年春に感染のピークを迎え、関西圏の医療崩壊を招いたアルファ株の感染拡大や、首都圏の医療を崩壊させた21年夏のデルタ株の感染拡大は人災の部分も大きかったと言わざるを得ません。
最新のデータでは、2020年1月から2021年11月までの超過死亡数(例年、ある時期の想定される死亡数よりも増えた死亡者数。たとえば季節性インフルエンザがどれだけ猛威をふるったかの指標になる)は11955~76215人と報告されています。中間の値で考えると約45000人の超過死亡者となります。これほど超過死亡者が多くなるのは、災害や戦争時ですが、今回のコロナ感染症は災害時並みに亡くなった人が増えていたことを示しています。
この中には、コロナ感染症によるもの(正しく診断されないままに亡くなった人を含む)、医療へのアクセスが確保されていれば助けられた可能性のある心筋梗塞・脳卒中患者、交通事故被害者、そして自ら命を絶たれた方も含まれます。医療崩壊が起こっていたことを科学的に検証することが重要です。
非科学的施策の最たる例がPCR検査の対象者の制限でした。
2020年の最初の感染拡大初期に、政府は新型コロナウイルス感染症を指定感染症(2類相当)に指定しました。指定すると、感染者はたとえ無症状や軽症であっても医療機関に入院させ隔離しなければなりません。PCR検査を広く実施すると、感染確認者が増え病床が入院患者で溢れ、医療が崩壊してしまう可能性があります。
そのため、PCR検査の対象者を、熱などの症状のある人と濃厚接触者に限定したのです。しかし、2年前の時点ですでに無症状感染者が多いとわかっていたのです。これでは無症状感染者から感染が拡大することを放置したに等しい政策でした。
感染者の発見とその隔離は感染拡大防止策のイロハのイです。クラスター対策を重視し、PCR検査を制限した政府の対策は科学を無視したものでした。結果、アルファ株やデルタ株の感染の急拡大を抑え込むことはできませんでした。
にもかかわらず、政府は欧米に比べ日本では感染者の数が少ないと胸を張っていました。公共の福祉と公衆衛生への理解が深い日本型の感染対策が成功したと言う論者さえいました。
しかし、ちょっと考えれば誰でも分かることですが、PCR検査をしなければ感染者は確認できません。日本の人口当たりのPCR実施率は世界で142位(2022年1月現在)で、1位のデンマークの75分の1しか実施されていません。