NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』が最終回を迎えた。祖母、母、娘の3世代にわたる100年の物語のもう一つの主役は「ラジオ」だった。

安子、るい、ひなたをつないだ「ラジオ」

 安子(上白石萌音)にとってラジオから流れる「実用英語会話」と「基礎英語講座」は、稔(松村北斗)との絆そのものだった。るい(深津絵里)にとって「カムカム英語(英語会話)」は、安子との数少ない楽しい思い出の時間だった。アニー・ヒラカワ(森山良子)が自分の素性を告白したのも、ひなた(川栄李奈)が偶然つけたラジオでのことだった。ラジオが、安子、るい、ひなたをつないでいたのだ。

 このドラマの中でのラジオには、もう一つ大きな役割が与えられていた。その時代のことをナレーションやセリフではなく、ラジオから流れる歌謡曲で説明していたのだ。いわば、『カムカムエヴリバディ』は100年の家族の物語であるのと同時に、100年の歌謡曲の物語でもあった。ここでは、劇中に登場した歌謡曲の背景や使用された理由について考えてみたい。なお、ジャズナンバーについては省かせていただいた。

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©AFLO/getty

ピクニックの思い出から敵性語規制へ…ドラマの時間を象徴する「ヒット曲」

 1925年生まれの安子(幼少期・網本唯舞葵)がまだ幼かった頃、橘家のラジオから流れていたのは、藤山一郎「丘を越えて」(31年/昭和6年)。戦前を代表するヒット曲の一つで、ピクニックの思い出を歌った朗らかで平和そのものという曲調だった(第2回)。

 戦争が近づいてきた頃、帰ってきた算太(濱田岳)を囲んだ食卓で流れるのは、ディック・ミネと星玲子のデュエット「二人は若い」(35年/昭和10年)。のどかな男女のかけあいが特徴で、劇中の時間より少し前のヒット曲だが、ディック・ミネが三根耕一と名前を変えられた敵性語規制を示すために使用されたものと思われる(第7回)。