もしもこの事故を防ごうとするならば、24時間体制で複数の産科医が待機するような基幹病院を地域に作る必要があるでしょう。しかし、過疎地域でそんな病院の採算が合うはずもなく、合理的に考えるならば「そもそも医療が充実していない過疎地域で子どもを産むな」「里帰り出産はリスクが高いのだから、おとなしく都市部の病院で産んでくれ」という話になってしまいます。
馳知事、産科医確保策を指示 輪島の新生児死亡受け 「県全体の課題と認識」(北國新聞デジタル)
https://www.hokkoku.co.jp/articles/-/733946
高齢者に対する医療は、ある程度の線引きであきらめることはできたとしても(それでも大変な問題ですが)、その地域で暮らす女性が子どもを安全に産めなければ地域の人口など増えようがありません。医療体制が整っていない地方への里帰り出産はこのようなリスクを前提とするべきで、これもまた、石川県全体や石川県医師会、新知事の馳浩さんの問題ではなく、「衰退とはそういうものなのだ」という大前提を受け入れる必要があります。
さらに、その地域の衰退は子どもの数の減少にともなって学校の統廃合となり、そこの学校を卒業しても働く場所がなければ、地方経済・産業の衰亡というスパイラルな問題がついて回ります。先日も、富山市が減り続ける子どもの数に合わせて学校の統廃合の試案を作ったところ、地元住民から担当する市職員や教育委員会がつるし上げられるという事件がありました。なんか大変だな。
そもそも子どもの数が減少したところに学校だけ整備することがどれだけの負担であるのか理解しない市民がいるため、富山県のほかの地域の住民が納める地方税がどれだけ無駄に使われることになるのか完全に忘れられています。きちんと子どもに教育を受けさせたいならば都市部に行くしかない、という事態は目前に迫っているとも言えます。
このままでは自治体消滅ドミノが発生する
先日も、JR西日本が1日当たりの輸送人数が2,000人以下の路線を公表し、衝撃が走りましたけれども、これはもうある種の死刑宣告だと受け取る人も数多くいました。
でも、忘れないでほしいのは、そういう地方のための赤字路線を維持しているのは、都市部で働き、少ない公共サービスを受けて暮らしている国民がいるからなのだという点です。ある程度は、高齢者にも、地方にも、同じ日本人同胞だから苦労は分かち合い、お互いがお互いを必要としているからという前提で成り立ってきたのが戦後日本経済であったことは間違いありません。
そのタガが、人口減少で都市部に高齢者も育児世帯もやってきて、経済失調に喘ぐ地方経済へ余剰金を移転できなくなりそうだとなって、自分たち都市部の税収は自分たちの暮らしのために使いたいという正論が出てきたとき、真の意味で自治体消滅ドミノが発生する危険性さえもあるんじゃないかってことですよ。
そして、これらの問題には正解などありはしません。少子化をどうにかしろと叫ぶ人に、「じゃあ、あなたがたは子ども3人以上儲けましたか」「これから儲けるにはどうしますか」「子どもを育てている人にあなたは道をあけますか」と尋ね続けるしかないんじゃないかと思うんですよね。
イーロン・マスクさんにも日本は人口減少で消滅しかねないって煽られましたが、まあもうそういうもんだよなって受け入れるしかないんでしょうかね。残念ですが。