31 広尾ガーデンヒルズ(1983~1987年/三井不動産、住友不動産、三菱地所、第一生命)
「広尾ガーデンヒルズ」(渋谷区広尾)とは全14棟、総分譲戸数1130戸からなる超高級マンション群。築年を経てなお価格が上昇を続ける“ヴィンテージマンション”の代表的存在だ。日本の分譲マンション史における記念碑的物件とも言える。
分譲は三井不動産、住友不動産、三菱地所と第一生命の4社、施工は清水建設、大林組、大成建設など6社のJV(ジョイント・ヴェンチャー)で、企業名を見るだけでも「このマンションを歴史的なものにしたい」という当時の意気込みを感じずにはいられない。
広尾という比較的閑静で緑豊かな立地に開発されたプロジェクトだけに、当時から人気となり、話題にもなった。最初に分譲されたのはA棟からC棟の3棟で1982年に分譲、1983年に竣工している。最初の分譲時の平均価格は6944万円、平均坪単価は247万円。C棟には最も安い4950万円という住戸も存在していた。3回目に分譲されたN棟には42.76㎡(3300万円)と狭めの住戸があった。
敷地の南側に配されたD棟、E棟、F棟は東京メトロ日比谷線広尾駅から近いこともあり、高級分譲棟となっている。分譲価格はE棟が坪単価538万円と最も高額(D棟:426万円、F棟:420万円)であったが、これは販売時期がバブルの価格高騰期になっていた1987年であったことも関係しているだろう。現在の中古市場における平均流通坪単価は、E棟が650万円程度であるのに対し、D棟は900万円程度と特に高額になっている。
それまで「広い庭がある戸建てに住むこと」が人生のゴールと見なされていた時代が長かったが、都心の一等地では難しくなった。そこで、一等地に相応しいグレードと価値を兼ね備えたマンションが求められるようになったのは自然の成り行きだろう。
その結果、住むこと自体がステイタスになるマンションが1980年代に生まれたのだ。建築基準法の耐震基準が1981年に強化されて、マンションの住まいとしての性能が大きく向上したことも要因のひとつである。
この物件では、バブル崩壊以降も、多くのウエイティング(売り物件が市場に出るのを待つ状態)顧客が発生した。このプロジェクトが完成後35年が経過してなお、多くの含み益を持っているのは、都心の一等地にあり、比較的大きな面開発で、敷地内が他では得がたい魅力に溢れているからだろう。
80年代にこのプロジェクトが生まれたことは奇跡に近い。新たな時代を開いたという意味で、音楽業界に例えるならビートルズのような存在かもしれない。