駅には道路が通じておらず、自動車で訪れることは不可能。実質的な唯一のアクセス手段は鉄道だが、列車は数時間に1本程度しか停車しない……。静岡県・愛知県・長野県3県の境界に位置するJR飯田線・小和田(こわだ)駅はマニアの間で全国有数の“秘境駅”として愛されている駅だ。
周辺には民家もないため、生活で駅を必要としている人もほとんどいない。浜松市の統計によると、2019年の1日あたりの平均乗車人員は、わずか3人だった。
築年数は約90年…旅情を誘う木造駅舎
そんな小和田駅を探索すべく訪ねたのは、ある春の日のことだった。隣駅の大嵐(おおぞれ)駅から飯田線に乗車して数分で目的地に到着。
最初に気になったのは、年季の入った駅舎だ。
小和田駅は、三信鉄道の終着駅として昭和11年に開業し、その後、南側へ線路を延伸し、国有化されて現在の飯田線となったという歴史を持つ駅だ。駅舎は、開業3年前の昭和8年に竣工したという。建設から90年に迫る駅舎は、現在もそのまま使われている。90年前の記憶がある人は少ないだろうが、木造の駅舎はどこか懐かしく、旅情を誘う。
駅から坂道を下ると、東屋の中に“愛”と書かれたベンチが鎮座していた。
これは、平成5年に当時の皇太子殿下と小和田雅子様が御成婚された際、雅子様の旧姓と駅名が同じだったことから、小和田駅行きの臨時列車が運行されるなどの御成婚ブームが起こったときに設置された「“愛”ベンチ」だ。
当時は連日多くの観光客が押し寄せたが、今では“愛”も、すっかり色褪せてしまっている。