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 津波は、海水が塊のままに沿岸に向かいます。塊の前にある海水に乗りかかるように高さを増していきますが、さらに厄介なのは入江や湾、また東北太平洋岸特有のリアス式海岸など、入口が狭い湾では急激に高さを増し、被害を大きくすることです。

 人間が歩く速度よりずっと速いですし、風や海流によって起きる波とは、性質がまったく違います。

 お風呂で手のひらを上にして水面から20㎝ほど沈めて、勢いよく上に動かしたり、さらに沈めたりしてみてください。水面が盛り上がる様子がわかるはずです。これが津波の原理です。

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 南海トラフ巨大地震においては、津波の高さだけでなく、到達時間にも恐ろしいものがあります。東日本大震災では大津波警報が出たりしていましたが、人々が津波発生を知らされてから到達まで、30分から小一時間ありました。

 ところが南海トラフ巨大地震では、早いところでは発生から到達までが2~3分だと予測されています。警報が正確に発報されたとしてもわずか2~3分です。これでは逃げるのにも限界があるでしょう。高台までの距離が遠い地域では、津波タワーが作られたりしていますが、そこをのぼり切る前に津波が到達してしまう可能性も高いと考えます。

「3.11」とは桁違いの被害が

 予想される南海トラフ巨大地震では、九州から関東までの広大な範囲にわたって、震度6弱以上の大きな揺れをもたらし、震度7を観測する地域は10県、151市区町村に及びます。

予想される南海トラフ巨大地震の最大震度と最大津波高(出典:内閣府資料) 図版制作=小林美和子

 また、東日本大震災では犠牲者の数が約2万人でしたが、南海トラフ巨大地震では、犠牲者数が約32万人、全壊や焼失する建物は239万棟、津波が原因で浸水する面積は約1000平方kmになると想定されています。産業・経済の中心地域も大きな被害を受けるでしょう。

 つまり、諸方面にわたる被害の数値が東日本大震災よりも一桁多い災害になり、日本の人口の半数近くである約6000万人が深刻な影響を受けると考えられます。

 経済被害額についての試算も出ています。東日本大震災での経済被害は20兆円でしたが、南海トラフ巨大地震では220兆円を超えるといいます。220兆円とは、日本政府の1年間の租税収入の約4倍の金額ですが、学者によってはこの220兆円でさえ、見積もりとしては「甘い」と言う人もいるほどです。

 しかも、土木学会の試算によれば、インフラへの被害が災害後20年は続くとされ、それらの損害を積算すると1410兆円になるといいます。