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――その状況から、よくぞここまで……。

渡辺 私はもう諦めていたんですよ。「あの企画と8話の脚本は、佐野さんにあげたものだ」と思って。これだけ能力のある人です。佐野さんには絶対に新しい職を得て活躍してほしかったし、佐野さんを失うことは、ドラマ界の損失だと思いましたから。

 そうしたらなんと、カンテレのプロデューサーさんに脚本を読んでいただけて「これ、面白いからうちでやりましょう」という話になって、ついでに佐野さんもカンテレに入社されることに。いまだに信じられないです。自分で書いておいておかしいですけど、「こんなの通るわけないよ」と思ってましたからね(笑)。

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©文藝春秋

ハラスメントの描き方について議論を重ねた結果

 メディア・報道という題材を扱い、そこに内在する矛盾や欺瞞も描こうとする本作。やり様によっては制作局に「ブーメラン」が返ってきかねない。企画を受け入れたカンテレも相当な覚悟を持って制作・放送に踏み切ったのではないだろうか。

――民放のドラマだとスポンサーの問題があるし、「作家性VSコマーシャリズム」の対立になるのではないか、渡辺さんの書きたいものがちゃんと書けるのだろうかと、勝手に心配していました。でも、第1話を見たうえでお話を聞いてみると、そういうストレスはほぼなかったようですね。

渡辺 そうなんです。そこは本当に、カンテレさんと、矢面に立ってくださる佐野さんのご尽力で。私はもう、好き放題に書いてるだけで。「NHKだから」「民放だから」という「書き分け」もしていません。ただ、いちばん心配だったのは、セクハラやパワハラの描き方について。

 これを書き始めた6年前より今のほうが、「ハラスメント」の描写に対する視聴者の反応が敏感になっていると感じます。当初は『フライデー☆ボンボン!!』チーフプロデューサーの村井(岡部たかし)みたいなおじさんって「普通によくいるよね」という気持ちで書いたんですが、今はこういう人物が、よりドギツく見えて、拒否されてしまう空気がある。そこをどう考えるかという議論は、佐野さんと最後の最後までしました。結果、残したんですが。

主演の長澤まさみと眞栄田郷敦 ©カンテレ/フジテレビ

不都合な欲望にも「置き場所」が必要

――恵那や拓朗に対する村井の罵詈雑言が「ババア」「更年期か?」「バカ」「クズ・カス・ボケ」「能無し」など、第1話の段階ですでに相当です(笑)。でもあれが第1話には必要だったんですね。

渡辺 抑圧されているだけで、セクハラとかパワハラとかをやりたい人の「謎の欲望」は実際にあるし、やっちゃう人がいる。そういう「不都合な欲望」みたいなものを抱えているのが、我々人間だと思うんです。

 しかし昨今は、そういうものを「見えるところには置かないようにしましょう」という風潮がある。これが果たして本当にいいことなんだろうか……というのが、ずっと思っているところで。だからもう、最終議論で私は声を低くして、「断固セクハラは残すから」みたいな感じで佐野さんに迫って(笑)、通させてもらいました。