生活態度に問題があれば、試合には出られない広陵
中井監督が中村と初めて会ったのは、中村が軟式野球のクラブチームに所属していた中学2年生の時だ。中井監督はその第一印象をこう語っていたことがある。
「野球は抜きん出た力がありましたが、髪型が明らかにおかしく、大馬鹿者。生活態度に問題があるヤツは、広陵では試合に出さない。彼には『来なくていい!』と伝えました」
既に多くの強豪校から誘われていた中村だが、「来るな」という言葉がむしろ心に響いたという。「男として真っ直ぐに生きろ」という中井監督の言葉に共感して、広陵への入学を決心した。
母子家庭に育った中村にとって、中井監督はいわば“父親代わり”でもあった。広陵OBは野村祐輔(広島)や小林誠司(巨人)など大学へ進学するケースが多いが、中村は高校卒業後にストレートでプロに進んでいる。
中井監督は中村に対しても、当初は大学進学を勧めるつもりだった。だが、最後の夏を前に中村はこう指揮官に訴えた。
「プロを希望します」
女手ひとつで自分を育ててくれた母に早く楽をさせてあげたいという理由を聞き、中井監督も最終的には中村の考えに賛同したと話していた。
「僕は子どもがめっちゃ好きなんです」
中村の家族観として筆者が忘れられないのは、彼が日本中を騒がせていた5年前の甲子園期間中の一言だ。準々決勝までに5本塁打を放って時の人となっていた中村に対し、小学生が写真を求めて近づいた。すると中村はその小学生を抱きかかえると「お前らも甲子園に来いよ」と声をかけた。そして振り返って筆者にこう言った。
「子どもがめっちゃ好きなんです」
純真無垢なその笑顔に偽りはなかっただろう。しかし、5年の月日が経過して聞こえてきたのは、親密な関係になった女性に対して堕胎を強要したという不誠実な対応だった――。