こちらの表は『水星の魔女』全12話+前日譚『PROLOGUE』についてまとめたものだ。筆者はテレビ放送をほぼリアルタイムで視聴し、その後のTwitterの動きも追いかけていたが、純粋に「物語としての見どころ」(伝統的な見どころ)と、SNSでいわゆる「バズる」見どころがハッキリと別のものとして用意されていたのが印象的だった。
公式Twitterアカウントも、何がSNSでバズるかを理解した上で、こまめな投稿を行っていることが見て取れた。
物語のなかに思わず何かを投稿したくなる「フック」を用意することで、物語の展開そのものやキャラクターへの共感とは別に、SNS上での楽しい体験を演出し、作品への好感度も高める。もちろん、投稿が増えればTwitterのトレンドとして注目を集め、未視聴の層への訴求も図ることができる。「スレッタ、忘れった」などの印象的なセリフで二次創作も含めてタイムラインを占拠し、歌のリフレインのように強い印象を私たちに残す。
意識的にSNSを巻き込むことで成功した「水星の魔女」
『水星の魔女』の成功は、物語作品の価値は物語コンテンツの中だけでなく、TwitterのようなSNS、つまり外部を意識的に巻き込むことで何倍にも育てられることを改めて示している。他作品でも、NHKの朝ドラは平日の朝を、仮面ライダーやプリキュアなどのいわゆる“ニチアサ”は日曜の朝を、そしてNHKの大河ドラマが日曜の夜と、定期的にTwitterのトレンドを埋め尽くすものは多い。
SNSを巻き込むのは一般的な商品やサービスにおけるマーケティングではよく知られた手法だが、物語コンテンツを巡っては「せっかく作ったのに飛ばされてしまう」という印象論がまだ強い感がある。
「タイパ」を重視すると言われるいわゆるZ世代についても、最近の調査で明らかになってきたのは、彼らは何がなんでもタイム=時間を節約したいわけではなく、パフォーマンス=効果を重視しているということだ。金銭的な制約が昔より厳しくなっているのは確かだが、効果が約束されているものに対しては時間の投資は惜しまない。『水星の魔女』におけるリフレイン消費もそれを示していると言えよう。
面白い物語コンテンツは飛ばされないし、仮に飛ばされてもまた戻ってきて見返したくなるような仕掛けを作品の内部、外部の両方に用意しておくといった対策を取る方が合理的なのだ。