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旦那 看護師さんに「靴を持ってきて下さい」って言われたから持ってきたよ。もうすぐ歩くリハビリが始まるんじゃないのかな。

 うーん。

旦那 (私につながってる)機械のモニターには、いままでとは違うものが映ってるね。何だろう? アラームがついてる。大丈夫かな。

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 大丈夫だよ。

旦那 おっ、「大丈夫だよ」が出てきたね。やったね! ちょっとずつね。

 お母さん。

旦那 ん? これ? テープレコーダー。あなたの声が入る。訳わかんないことを言ってるのを録音しておく(笑)。

 うわーっ。

旦那 「お母さんはわかんないの」とか言ってるところを(笑)。

 わかんないよ。お母さんはわからないのよー。

旦那 声は昨日の方が出ていた気がするね。最初の頃はめちゃ小さかったけど、喉に管を入れたりいろいろしてたから、声が出にくいかもね。ああ、まだ舌が白い。いろいろ薬とか飲んでるからかな。目はきれいよ。

 わかんない。お母さんわかんないからさ、こう、ええと、わかんないから、コウワンなんだよ。

旦那 アハハハ。前みたいに「もうイヤだ!」って感じがないじゃない。ちょっとは大人になったんじゃないの?(笑)

 もうさ、もう、わかんないからさー。何だかわかんないわけ。かわぐさんに。

旦那 看護婦さん?

 うん。

旦那 看護婦さんには何を言ってもわからないんだね(笑)。

 うん。

旦那 そっか。でも、看護婦さんが悪いわけじゃないよ。問題はあなたにある(笑)。

 うふふふ。

旦那 何言ってもわかってもらえなくて、イヤになっちゃったなあって感じ?

 うん。

旦那 私が言ってることをあなたが理解してるのは伝わってくるんだけど、あなたが言ってることがまわりの人には理解できないのよ。まだもうちょっと時間がかかる。あなたはおしゃべりで、聞いてもらうことが大好きだから、不満な気持ちはよくわかるよ。でも、不満な時に「不満だ!」って顔をするからおもしろいね。

 (うなずく)

旦那 あっ、うなずいてるね。大丈夫、だんだんわかるようになるから。こうやってゲラゲラ笑っていれば大丈夫よ。笑ってるうちに、脳味噌のいろんなところが頑張ってくれて、だんだんみんなに話が通じるようになるから。それまで休んでいればいいのよ。子どもたちに何か伝言はある?

失語症になった清水さんのために当時小2の娘さんが書いた濁音の表

 お母さんは、その、お母さんは、その、学校の……。

旦那 あっ、学校。うん、すごいじゃない。

 コウサンが。

旦那 コウサン? うーん、コウサンか……。

 うん。

旦那 コウサンって何?

 うーん、わかんないんだ。

旦那 わかんないんだ。

 何だっけ?

旦那 「何だっけ」って、初めて言ったね。すごいじゃない! 「お母さん」と「わかんない」のほかに、「大丈夫だよ」とか「何だっけ」とか言えるようになってきたね。

 うん。でも、お母さんがお母さんはわかんないでしょ。

旦那 うーん。何だろう?

 わかんないからさー。そのー、コウサンは、コウサンは、うんとー、わかんないからねえ。

旦那 コウサンって何?

 ええと、お母さんはわからないからお母さんわかんないもんね。

旦那 何を言ってるのか全然わからない(笑)。

 わかんないでしょ。

 こんなに全然しゃべれなかったんですねえ。「コウサン」はたぶん、学校の先生と言いたかったんでしょう。