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 先ほど五校に一校がフードバンク的な取り組みをしているという話がありました。僕は恥ずかしながら、サバティカルでイギリスに行くまでフードバンク自体を知らなかったんですけど、いまでは日本でも増えてきています。そこまで貧困が進んでいる。とりわけ子どもたちの貧困が大変な問題になってきていて、子ども食堂もある時期から広がって話題になっている。そう考えると、日本でもアナキズム的な情景が立ち上がってきているのかもしれません。

國分 貧困について考えるとき、国に大きな責任があることは忘れてはなりません。国が貧困について責任ある行動を取ってきているかどうかは常に批判的に吟味されなければならない。でも、ある条件やある現実がアナキズム的な情景を立ち上げていくという場面があることも事実だし、大切なことです。そこは決して忘れちゃいけない。

 

 これは実は複眼的に考えなければならない難しい論点だと思います。一方で、アナキズム的な情景を変に称賛すると、国の責任が見えなくなってしまうことがある。でも、他方で、「とにかく国がやるべきだ」と国への要求や批判だけに終始するならば、地べたのポテンシャルというか、人々の持っているアナキズム的なポテンシャルを見失うことにもなりかねない。複眼的と言いましたが、両方の点に同時に目配りしながら考え、そして発言していかないといけない。

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 ブレイディさんもずっとそうされてきていますね。緊縮財政を批判する一方で、アナキズム的な情景が立ち上がっている現実を常に書かれてきた。僕は「国の責任を見逃したら絶対にいけない」ということと、「アナキズム的な力を見失ってはならない」という両方のメッセージをブレイディさんの本に読んできたように思います。

イギリスでも光熱費の高騰が大きな問題に。住民たちの“答え”は――

ブレイディ イギリスの北部のほうだったと思うんですけど、光熱費の高騰をなんとかしようと、風力タービンを導入したコミュニティがあるんです。つまり、自分たちで発電しようと思っている人たちまで出てきているわけです。そういう自治が立ち上がってくると、そのなかからリーダーが出てきそうな気がするんですね。「自分たちはこれできるよね」と自信をつけ、その動きがどんどん広がっていったら、相互作用で国も変わっていくんじゃないでしょうか。国が議会で決めた政策を下におろして変わっていくだけじゃなくて、下から自治をやっていくなかで、本当に地に足の着いたやり方ができるリーダーが出てきて、下から変わっていくかもしれない。だから、どっちかだけじゃ駄目なんですよね。

國分 僕は震災の時にそういう話をよく聞きました。いまの政治を見ていると、こんなに情けなくてどうしようもない状態なのに、震災の後のボランティアの現場に行ったら、ものすごいリーダーシップを発揮しているすぐれた人たちがたくさんいた、と。実は社会に変えていく力をもった人たちが既にたくさんいるということを僕もそうした話から教えてもらいました。