東京女子医科大学が研究費などの税務申告をめぐり、東京国税局からおよそ2億5000万円の申告漏れを指摘されていたことがわかった。追徴課税額は過少申告加算税を含め、およそ5500万円とみられている。

 文春オンラインでは、これまで女子医大をめぐる“疑惑のカネ”について報じてきた。また、昨年7月には、東京国税局の“最強部隊”といわれる課税第二部資料調査課「通称:リョウチョウ」が女子医大の税務調査に着手したこともスクープしていた。

 今回の追徴課税はリョウチョウの調査の末に行われたものと見られるが、果たして、女子医大が抱える闇とはどれほど深いのか。“疑惑のカネ”を詳細に報じた当時の記事を再公開する。(初出・2022年7月19日、年齢、肩書は当時のママ)

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 医師・看護師らの大量退職が続き、毎月2億円を超す赤字が出ている東京女子医科大学病院。名門病院の凋落を招いたとされるのが“女帝”理事長・岩本絹子氏(75)の経営方針だ。彼女の公私混同と、元宝塚スター親族企業も関係していた、3つの「疑惑のカネ」について全貌を明らかにする。(全3回の3回目。1回目を読む)

【疑惑のカネ3】一級建築士に給与と謝礼の「二重払い」

 女子医大は、経営が厳しいとして人件費を抑える一方、新病院の移転や病棟の建替えを次々と進めている。そこには数百億円規模の資金が動く。

“第三の疑惑”は、大型建築に絡んだ嘱託職員への給与と多額の謝礼の「二重払い」だ。

 2016年4月から、女子医大は一級建築士・C氏を非常勤嘱託職員として雇用した。同年3月、都内の大手設計事務所を定年退職した人物である。

 C氏の給与は、週2日程度の出勤で月額32万円だったが、その後は月額60万円前後で推移している。ただし、給与とは別にC氏個人に、18年7月から22年2月まで「建築アドバイザー報酬」が支払われていた。総額は2.5億円で、一級建築士とはいえ、個人の報酬額としては破格だ。

 稟議書によると、莫大な報酬の名目は、移転した新病院や建替えた病棟に関する、基本構想や値引き交渉、施工管理など。岩本理事長(当時:副理事長)が承認した押印もある。ところが、「これが内部で問題になった」と元職員が明かす。

「女子医大の監査法人が、18年7月から19年11月までの『給与と報酬の二重払い』は、社会通念上ありえない、と指摘しました。これを受けてC氏の給与支払いは、止まりました。この翌年、女子医大は、数十年も続いていた監査法人との契約をばっさり切ったのです」

新築後、約6億円を追加して理事長室などが設置された「彌生記念教育棟」

「最終的な報酬の支払いの際に給与分を控除」という詭弁

 C氏は建築事務所(株式会社)の代表でもある。東京・秋葉原に近いビルの8階にあるオフィスを訪ねると、平日の昼間なのに人の気配はなく、電話にも反応がない。そこで、公開されている建築事務所のメールアドレスに質問状を送付したところ、C氏の代理人が回答した。

「(2.5億円の報酬は)我々の業界での通例の範囲内の金額。(二重払いの指摘は)最終的に報酬から控除し調整されており、『報酬を二重』で得ていたという認識はありません」

建築アドバイザーC氏の事務所が入るビル

 岩本理事長の代理人からも、ほぼ同じ内容の回答があった。

「高額の請負契約の場合に、このような専門家に委託するのはむしろ当然です。なお、C氏との契約においては、最終的な報酬の支払いの際に給与分を控除することになっており、二重払いという指摘はあたりません」

 “最終的に報酬から給与分を控除する”ということが、現実的に可能なのか。『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか』の著者で、税理士の米澤勝氏はこう指摘する。

「所得税法では、2.5億円のアドバイザー報酬は『事業所得』に区分されます。異なる区分の『給与所得』を最終的に報酬から控除することは法的には不可能ですので、女子医大の説明には無理があります。また、莫大な報酬に相応しい仕事をC氏が行ったのか、客観的な検証が必要でしょう」