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若いクマや子連れクマが里へ集まってくるワケ

東出 その原因を米田さんはどう分析されていますか?

米田 ひとつは里山の奥山化。過疎と高齢化により里山に人の手が全然入らなくなって、木が立派になり、クマの餌場になる。クマの世界では大きなオスが一番強く、彼らが山奥のいい餌場を占拠しているので、そういう人里に近い餌場には弱者たる若いクマやメスグマ、子連れグマが寄ってくる。

 その縮図がここなんですね。目の前の県道は昼夜問わずトラックがひっきりなしに通っているんだけど、その道路脇が若いクマにとっての安全地帯になっている。山の餌の状態がよくないと、8月頃に一気に里に出てきて畑や果樹に若いクマや子連れグマが集まってくる。

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東出 人間も車も恐れないんですか? 

米田 もう慣れてるわけだ。今の時期は日が沈むころになると大豆畑に黒いのがゴロゴロしてよ。道路にも糞が転がってる。

大豆畑に出没したクマ(米田一彦撮影)

人身事故が起こると一気に駆除が進んでしまう

東出 クマが里に降りてきてしまうという問題は北海道知床でも深刻だと聞きました。猟師が車から降りて車道脇のエゾシカを撃って遺体を放置したり、観光客がヒグマに餌をやったりしたことで、特定の個体が車道周りや観光客の多い海岸線周りから動かなくなる。

 その結果、危険と判断されて、彼らは何もしていないのに殺されてしまう。知床の環境保護センターの方が、「クマを死に追いやったのは、やめてくださいという制止の声も聞かずに同じ行動をとり続けた人間自身なんだ」と、涙を堪えながら語ってらっしゃったのが印象的でした。

牛を襲い続けたOSO18の姿(標茶町提供) ©時事通信社

米田 無罪射殺ほど悲しいことはない。ここで2016年にタケノコ採りをしていた男女4人が食い殺されてしまった「十和利山熊襲撃事件」の時もそうだったけど、人身事故が起こると一気に駆除が進んでしまう。数が増えれば頭数の調整局面ということで仕方ない部分もあるが、罪のないクマは殺したくない。そのためにも、OSO18のように個体識別をすることが重要になってくる。