「医師にさえなれればいい」という開業医の子弟たち
一方、大量留年が発生している大学は、かつて「金を積めば入れる」と揶揄された70年代に設立された私立の新設校に見受けられます。そうした大学でも偏差値が上昇し、現在では裏口入学はほとんどできなくなったと言われています。大手予備校・河合塾の大学入試サイトKei-Netで確認すると、私立大学医学部の偏差値は最も低い大学でも62.5となっています。単純比較はできませんが、これは早稲田や慶應の理工系学部と同程度の偏差値です。つまり、早稲田・慶應かそれ以上の学力がないと、どの医学部にも入れないのです。
それに、私立の新設校でも留年が減り、国試合格率をアップさせているところがあります。優秀な学生が集まるようになったので、大学側のやり方次第で留年や国試浪人を減らせる可能性もあります。ただ、まだ以前の雰囲気が残っている大学もあるようなのです。私立大学出身で国立大学の医局に入った医師が、次のように語ってくれました。
「国立大学の医師たちはみんな海外の論文を一生懸命読むなど、よく勉強していると感じました。一方、僕の母校では開業医の子弟が多いせいか、『医師にさえなれればいい』という感じで、試験に受かる以上の勉強はしない学生が多かったと思います」
私大医学部生はベンツやポルシェ、教授は国産車
また、国立大学出身で、ある新設私立大の教授になった医師も、次のように話してくれたことがあります。
「大学の駐車場にベンツやポルシェが停まってるでしょ。あれは全部、学生たちの車なんですよ。やっぱり、私大の医学部に入れるのは開業医とか裕福な家庭の子が多いよね。教授のほうが安月給で、僕なんて国産車ですよ」
裕福な学生が多くてモチベーションが低いうえに、まわりも勉強熱心でないために、そうした大学では大量留年が発生してしまうのかもしれません。
学生を留年させるのは、大学側にも事情があります。国試合格率が低いと、文科省から補助金が削減されてしまうリスクがあるのです。見かけの合格率を高めるために、国試に受かりそうにない学生は簡単に卒業させません。
20人留年させれば1億円収入が増える
それに、医学部関係者から、こんな噂も聞きました。一部の大学では「経営的な思惑もあって、学生を留年させているのではないか」というのです。私立大学医学部の学費は、6年間で2000万円から高いところで4000万円以上かかります。1年間の学費が500万円だとすると、20人留年させれば、それだけで1億円も収入が増えるのです。
「授業料稼ぎ」の真偽は不明ですが、医学部に合格したと喜んだのもつかの間、留年を繰り返されたとしたら、保護者はたまったものではありません。そのうえ国試浪人されたら、国試予備校に通うのにも数百万円の授業料がかかります。大金を叩(はた)いたのに、もし医師になれなかったら……想像しただけでも悲劇です。
留年は一部の私立大学だけの問題ではありません。東京大学をはじめとする難関大学でも、解剖実習のテストのためにひたすら人体の部位を覚えるのがバカらしくなって転部したり、臨床実習がうまくいかず引きこもって留年してしまう学生がいると聞きました。
2017年の東大医学部の国試合格率は平均以下
ちなみに、2017年の東京大学医学部の国試合格率は88.9%で、80校中46位と平均点レベルです。しかも既卒者(国試浪人)を見ると15人中6人しか合格していません。最難関の医学部と言っても、入ってしまったら「並」の学生になってしまうのです。
医学部では「よき臨床医」を育てる目的が重視されるようになりました。そのため、低学年のうちから、高齢者や障害者の施設で介護体験などをする「アーリー・エクスポージャー(早期体験学習)」や、数人のグループで自発的に学習をする「PBLチュートリアル」といった、他者と触れ合ったり、多くの人と協同作業したりする授業が増えました。
このような教育内容に興味を持って取り組める人でないと、医学部での勉強は続きません。「自分は苦手だな」と思う人は、受験はやめたほうが無難なのです。
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