『4』(青松輝 著)ナナロク社

靄のなかでわたしが目を離せずにいる5秒でループするキス動画 青松輝

 若者を中心に短歌が人気を博している。新鋭歌人の歌集がベストセラーになることも増えたが、青松輝さんの第一歌集『4』もその1つと言えるだろう。順調に版を重ね、発売1カ月が経つ今も大型書店の文芸書ランキングでは上位に入る。

「短歌を読む人にも届いてはいるみたいですが、今のところ元々僕のYouTubeのファンだった人が買ってくれることが多いと思うので、ここからどれだけ売上を伸ばせるかですよね」

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 そう語る青松さんは歌人の他に、人気YouTuber「ベテランち」としての顔も持つ。灘高⇒東京大学医学部という圧倒的な学歴と巧みな話術を活かし、チャンネル登録者数は16万人超。青松さんを経由し短歌を始めたという人も多い。

「YouTubeを始める前から短歌はやっていました。2018年に東京大学Q短歌会というサークルに入ったんですが、歌会や新人賞に歌を出してもなかなか想定したように読んでもらえなかった。短歌の世界の共同体には独特の読みのコードがあって、僕が書きたいように書くと伝わらないことが多かったんですね。でもYouTubeを観てくれる人には自然と伝わるんですよ。それは例えばボカロの曲の歌詞とか、同時代のコンテンツから同じようなポエジーを摂取してきたからだと思うんですが。動画から短歌への流入率も当初想定していたより遥かに高くて」

 確かに青松短歌には現代的なモチーフと詩情が混ざり合っている。一方で難関受験を勝ち抜いてきただけあり、作歌の方法論はかなり計算されている印象だ。

「歌を作る時に、この短歌をどういう一首にしたいかという構想がまずあって、その狙ったところに向けてアプローチする。先にルートを設定しておくような作り方が、最近は好きです。とはいえ最後のワンステップは無意識な部分にも委ねるようにしています。

 常に短歌で見たことのない名詞を探しているんです。短歌の名詞の出し方ってベタなモチーフに新しい解釈を持ち込むことが評価されやすいけど、それよりも誰も使っていない名詞を入れたい。名詞の選択の良し悪しが一番単純なレベルで歌の質に直結すると思うので」

青松輝さん

 象徴的な歌がある。「数字しかわからなくなった恋人に好きだよと囁いたなら 4」。歌集のタイトル『4』の元にもなったこの歌では、無機的な記号である数字に詩情を発生させるという力技を成功させた。

「どうしたら数字がエモくなるかを考えていました。僕は数字が好きで、数字を信頼している。テストをたくさん受けて育ってきたし、YouTubeも完全に数字の世界。演算可能性みたいなものに興味があります。短歌だって、ほとんどの部分は数字でクリアできてしまうんじゃないかと思います」

 2010年代以降の短歌は生活のリアリズムを描く傾向にあったが、青松さんが目指すのはそこではない。

「いま流行っているような温かみのある短歌とか、生活感のある歌から一歩踏み込みたいとは思っています。安易に生活がダサいと言うのも違うと思いつつ、僕は生活というものから疎外されてきた感覚が強いんです。ずっと昼夜逆転してて、学校では寝ていたし、今も大学は留年してる。いわゆる『生活』というものにログインして共感することが難しい。身体性とかもよくわからなくて、自分が本当に存在しているとかの実感があまりないんです。それよりテスト勉強とかゲームとか、何かに没入することの方にリアリティを感じます」

あおまつあきら/1998年、大阪府生まれ。歌人、YouTuber。東京大学医学部に在籍中。2018年、東京大学Q短歌会に所属し作歌を始める。「ベテランち」「雷獣」名義でYouTubeでも活動。本書『4』は2018年から2023年までに作った短歌394首を収めた、第一歌集となる。