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 でも、正直に言うと私も人の悩みを受け止めるほどの余裕はまだありません。お話を聞きながら、私自身が辛くなってしまうことも多いんです。それでも、私にできることがあるならなんとかしたい。一人ひとりにDMは返せなくても、本を出したり、講演会やイベントをしたりすることで誰かの役に立てるのなら、発信を続けたいと思っています。

 実際、『竜ちゃんのばかやろう』を読んで「思いとどまった」とメッセージをいただいたり、講演会で泣きながら「今日、光さんのお話を聞けてよかった」と感謝を伝えてくれたりする方がいる。「私の体験が、誰かの役に立つことがあるんだ」と思うと、私自身も救われます。

©山元茂樹/文藝春秋

辛い過去を文字に起こすのは、前を向くための第一歩

――先程「人の悩みを受け止めるほどの余裕はない」と言っていましたが、光さんは少しずつ前を向いて歩きはじめているように思います。どうやって、辛い過去と向き合ってきたのでしょうか。

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上島 少し話が逸れるのですが、ここ最近1年前に息子さんを亡くされた方とDMのやりとりをしているんです。DMには、「息子を救えなかった」「あれから何もやる気が起きない」という内容が長文で綴られていて……。大切な息子さんを亡くしてしまって、「前向きに生きられない」と思う気持ちはよく分かります。一方で、この方はすでに前を向き始めているとも思うんですよね。

――すでに前を向き始めている?

上島 はい。長文のDMを送ってくれているということは、辛かったこと、悲しかったことと向き合って、文字に起こしているということだから。

「楽しそうな人生だったね」と言ってもらえる人生を送りたい

 私自身が『竜ちゃんのばかやろう』を書き終えてから気づいたのですが、“書くこと”で自分の心と向き合うことができたと思っています。本にするためには、竜ちゃんの死に向き合わなければいけない。忘れてしまいたいことも、思い出さないといけない。書き始めるまでは、そんなことが私にできるんだろうかと不安でした。実際に、文字に起こしている間はすごく辛かった。でもいざ書き終えてみると、「これでやっと前に進める」という気がしたんですよね。

©山元茂樹/文藝春秋

 それでも、「何もしたくない」「辛い」と思うときもまだまだあります。でも、本当に何もしないで膝を抱えたまま過ごしていたら、「竜ちゃんのせいで、私の人生めちゃくちゃだ」と恨みながら人生を終えてしまうと思うんです。そんな人生は私も嫌だし、きっと竜ちゃんも悲しませてしまう。

 それよりも、いつか会えたときに「先に行って空からヒーチャンを見ていたけど、楽しそうな人生だったね」と言ってもらえる人生を送りたいですね。

INFORMATION

上島光さんエッセイ『竜ちゃんのばかやろう』KADOKAWAより発売中

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【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】

▼いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)

▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)

▼よりそいホットライン 0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120-279-226(24時間対応)