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中森明菜が新幹線の車内で歌い、ビートたけしは「生放送中に脱ぎ始めて…」久米宏(79)が語る『ザ・ベストテン』の“ありえない舞台裏”

久米宏さんインタビュー #1

2023/11/30
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吐き気、栄養失調、結核…入社3ヶ月目頃から体調不良に

――受け手側から送り手側になることに、緊張や戸惑いはありましたか。

久米 最初は緊張しました。そのストレスからか、入社してすぐに体調を崩してしまって。

――詳しく聞かせていただけますか。

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久米 まず入社3ヶ月目頃から、通勤電車に乗ると気持ち悪くなってしまって。電車のドアが閉まる音で嘔吐しそうになるんです。1駅乗ったら降りて、ホームのベンチで休んで少し落ち着いたら、また1駅乗る。シャクトリムシのようにノロノロ移動するから、通勤にとても時間がかかってしまいました。

 それから「気持ち悪くなるのは、朝ごはんを食べるからだ」と思い、朝食を抜くようにしたんです。それでも体調が戻らないから、昼も食べなくなって。「吐き気が収まってきた」と思ったら今度は、恐らく栄養失調でしょう、結核にかかってしまいました。

 当然人前で話すアナウンサーの仕事はできず、電話番の仕事ばかり。当時は、「人生終わった」と思っていました。今、思い出すだけでも胃が痛くなります。

現在のTBS社屋 ©iStock.com

番組チェックをしながら「話し方は無数にある」と気づく

――しかしその後、人気アナウンサーとして長年業界の第一線で活躍することになります。どのようにしてその時期を乗り越えたのでしょうか。

久米 今振り返ると、ひたすら先輩アナウンサーの話し方を分析していたのが良かったのかもしれません。電話番をしているとき、先輩が出演しているラジオやテレビ番組をチェックして、報告書にまとめる仕事を任されたんです。会社としても、「久米に何か仕事を与えないといけない」と思っていたのでしょうね。

 報告書にまとめるのは先輩の番組ばかりだから、悪口は書けない(笑)。でも、提出するからには、「よく聞いているな」「よく考えているな」と思われたい。「僕にしか気づけないことを見つけよう」と意気込んで各番組をチェックしていました。

――何か気づいたことはありましたか?

久米 アナウンサーの話し方には、“お手本”とされているものがあります。先輩たちはそれに則って話している。でも、どれだけ意識しても、一人ひとり違いが出ます。その違いが分かるようになったことで、「話し方は無数にある」「アナウンサーの話し方次第で、テレビやラジオはもっと面白くなる」と思うようになりました。