それでいて自分は嫁さんに褒めてもらいたいというのが、亭主という生き物だからタチが悪い。この間も主人が初めて自分でご飯を炊いたと言うんです。「簡単だね。ビックリしたわ。スイッチ押すだけじゃないか」と威張るんですが、「すごいわね」って褒めてほしいんですかね? しかも「でもなんかマズいんだ」と首を捻ってるから、「ちゃんと米を研ぎました?」って聞いたら、「何それ?」ですからね。
要は世の男性は妻に甘えすぎなんです。でもこの世であなたがたを無条件で褒めてくれる女性はたった1人、お母さんだけです。それなのにお母さんのように褒めることを妻に求めるから、おかしくなる。そこを認識すべきやと思う。
一度私が「夫婦だってもともと他人やから!」と言ったら、主人がビックリしてましたね。「他人なことあるか!」って。一緒に子どもを作ったんだから他人なわけない、というんですけど、そんなの関係あらへん。大体の女の人は「もともとは他人やもん」と思ってます。そこに気付かずに「夫婦やから」とあぐらをかいていると、痛い目見ますよ。
「人生100年時代」に夫婦であり続けること
ウチの場合、主人と顔を合わせるのは週1回ですけど、それでも玄関のドアを開ける前は深呼吸します。本当にしんどいんです。誤解しないでほしいのは、嫌いになったわけじゃないんです。ただもうクタクタなんです。
それは自然なことやと思います。
だって考えてみれば、子育てを終えた老夫婦が下手すると30年も顔突き合わせて暮らさなきゃいけないなんていうのは人類史上、初めてのことですから。
そんな時代に夫婦であり続けることは、それだけで大事業です。だから夫にも新たな資格がいるんと違うかな。定年した夫は、そのためのスクールに入ってご飯の炊き方から、掃除、洗濯、電球の替え方まで習って、妻には「ありがとう」と言えるようにする。法律化すべきですね。
それがイヤなら無理矢理にでも距離をとるしかない。
だから旅行会社さまに申し上げたい。定年した夫のために新しいツアーを作ったらどうでしょうか。
「体験ツアー遠洋漁業」「南極大陸終活ツアー」……世の奥様方から問い合わせが殺到すること、請け合いです。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2024年の論点100』に掲載されています。