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プロ入りに絶対に欠かせない要因

 小山四段は、大学生のときアマ名人戦で優勝して、奨励会の三段リーグ編入試験の資格を得た。そこで大学を休学してその試験に挑むも結果は不合格。

 一旦は、プロ入りの夢を諦めるも、社会人生活のなかアマチュアとして重ねた対局での好成績もあり、棋士編入試験の資格を獲得したのである。この時期に勝ち星を重ねた要因として先手番が多かったことが本の中でも触れられているが、この点について遠山六段から質問があった。

遠山 先手のほうがたしかに少し有利ですが、勝負のうえでそんなに大きな影響がないようにも思いますが。やっぱり先手は有利?

小山 そうですね。私は序盤戦術の幅が狭く、特定の戦法しか指せないですし。

遠山 なるほど。後手だと作戦負けになりやすい?

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小山 そうですね。

 本書には、小山四段の師匠である北島忠雄七段のインタビューが収録されており、そこでも《小山くんの将棋の強さは、終盤にあると思います。逆転勝ちも多く、そこが小山くんの将棋の持ち味だと思います。》と書かれている。

 アマチュア棋戦は、プロにくらべて持ち時間が短く逆転が起こりやすい。そんな環境ゆえ、終盤、抜群の強さをもつ小山四段は勝ち抜いてきたのだが、序盤の研究がまだプロレベルではなかった。序盤の精度を上げること。これがプロ入りに絶対に欠かせない要因だったが、それを小山四段はどのように克服したのかは、本書を読んでみていただきたい。

遠山雄亮六段(左)もジュンク堂書店盛岡店を訪れた

勝つときの心境は嬉しいというよりホッとする

 その後、棋士編入試験・第4局である横山友紀四段戦について、大盤を使って解説することになった。イベントが始まった当初は少し緊張した様子にも見えた小山四段だったが、駒を使って解説するようになると、実にリラックスして楽しそうである。やはり棋士は駒を動かすのが好きなのだろう。

 この対局は、横山四段の四間飛車に小山四段が居飛車で対抗する形になった。前半から指し手がどんどん進み59手目、小山アマが桂馬を使って飛車と角の両取りを決める。

遠山 ただ、この手はプロ的には味の悪い手(両取りがかかった角は王手で小山さんの銀を取ることができる)。中継を見ていたときは「え?」と驚きました。でも、小山さんはすぐに指し手を進めるし、モバイル中継の評価値も悪くならないので「なるほど、こういう手があるんだ」と思わされましたね。

 つまり、それほどこの一局にかける小山四段の研究が深かったということで、遠山六段からも「四間飛車の将棋でこれだけ研究で進むのは珍しい」といった声がもれた。

 その後、勝ちを大きく引き寄せるも、緩手があって一時、状況は五分になる。しかし、そこで冷静になることで、ふたたび勝ちに近づいた。そして遠山六段が、この対局を中継していたモバイル中継のこんなコメントを紹介する。