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「こんな感じのものをつくってよ」アメリカ流“曖昧な指示”で1年目の新入社員にも仕事を任せたほうがいい訳

「こんな感じのものをつくってよ」アメリカ流“曖昧な指示”で1年目の新入社員にも仕事を任せたほうがいい訳

牛尾剛✕けんすう その2

source : ライフスタイル出版

genre : ライフ, 読書, 社会, 働き方

note

 2010年代からYouTuberをはじめインフルエンサーというのが流行って、ネットでも「好きなことやればいいよ」という発言が目立ってきました。「やりたいことを見つけないと、キャリア的に失敗だ」みたいな風潮が強くできて、多くの若者が悩み続けてしまう流れがあったので、別の方法論を提示したくて書いたんです。

牛尾 なるほど。けんすうさんはメソッド好きだけあって、この本完璧でしたよ。僕はこのメソッド通りに一切「魔改造」とかせずに自己分析して、一番なりたい状態に近づくためのキャラを設定したんです。僕の本当になりたい姿は、世界中の人々が使ってくれるソフトウェアを書く男で、HashiCorp創業者ミッチェル・ハシモトや僕のメンターのクリスのような存在です。

牛尾剛さん

 キャラを設定するプロセスでクリスにインタビューしたら、なりたい状態になるために「僕ならモノづくりをするな」という。そっか、やっぱり彼のようなエンジニアになりたかったら勉強以上にコーディングに時間をかけるべきだなと気付かされ、プライオリティを整理して、実行しているところです。

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「弊社は特殊で…」と魔改造をしだす日本企業

けんすう すごくいいですね! 魔改造をしないってわりと大事なポイントで、料理下手な人ほど大体レシピ通りにつくらずにアレンジをするんですよね。まあレシピなら、みんな大きく外れたことはしないけど、人生や仕事のメソッドになると途端に自己流でやっちゃうみたいなのありますよね。

牛尾 それは本当にそう。もともと僕は日本でアジャイルとかDevOpsのコーチをやっていましたが、新しいプロセスの導入にあたって多くのお客さんが「弊社は特殊で…」とか言って独自の魔改造をしだすんですね。日本はこういう文化ですからといろいろな理由をつけて魔改造をするんですけど、そうすると大体うまくいかないんですよね。

けんすう わかります。先日セールスフォース社の方と話す機会があったんですけど、「アメリカ人はツールに人が合わせる」。そっちのほうが生産的だから。でも、「日本人はやっている仕事に合わせて、ツールを変えてくれ」と言うんだとか。

 それを聞いて、日本は他の文化圏のノウハウを徹底するのが苦手という話を思い出したんです。歴史的なスケールでいうと、奈良時代に律令制度という中国の官僚制を導入したさい、入れたはいいけどどんどん魔改造してダメになって、腐敗がはびこってしまった。あまり他国から攻められた経験がないので国家制度がグダグダでも滅びずにやってこれたという話を聞いて、なるほどと思いました。新しいものを入れたさい、そのルールを素直に実行するのが苦手なのは、日本企業にも共通する話ですね。

牛尾 全く同じ香りがしますね。僕が日本の大手SIerにいた時代、上司からよく言われていたのは、「現場の操作性が下がったら現場が混乱する。だから変えられない」と。ところが、アメリカのマイクロソフトで働いていると、使っているシステムが2年ごとにまるっと変わっていく。たしかに最初はみんな混乱するんですよ、1日くらいは。でも、2日目からは慣れて、新しいシステムのほうが操作性もシンプルだからみんなが楽になっていく。