『林陵平のサッカー観戦術 試合がぐっと面白くなる極意』(林陵平 著)平凡社新書

 イングランド「プレミアリーグ」を始め、いま海外サッカーが面白い。傑出した選手、監督らが揃い踏みのなか、遠藤航(リヴァプール)や冨安健洋(アーセナル)といった日本人選手の活躍も目覚ましい。現在は各動画配信サービスで中継されており、テレビやスマートフォンで簡単に視聴できる。試合のある週末が楽しみでしようがないという方も多いのではないか。

 注目の一戦では日本語の実況と解説が行われる。海外サッカーファンから特に支持されている解説者が、今回『林陵平のサッカー観戦術』を上梓した林陵平さんだ。発売後1カ月ですでに3刷が決まっている。

「このところ、僕の解説を楽しみにしてくれている人も増えてきていて、反響は大きいですね。『サッカーの見方が変わりました』って。ありがたいことです」

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 林さんは元Jリーガー。あまりのサッカーマニアぶりから、現役時代もシーズンオフに解説の仕事を受けていた。2020年の引退後は、解説業の傍ら、21年から23年まで東大サッカー部監督も務めている。引く手あまたの林さんの強みは「圧倒的な知識量」。様々なリーグの試合を月に100試合は観ている(!)。

「誰よりもサッカーの試合を観て、誰よりも準備しています。謙虚に取り組みながら、自信はありますね」

 本書には、そんな林さんが心がけているサッカーの見方がまとめられている。

「戦術本ではなく、観戦術本なんです。サッカー経験者でもそうじゃなくても、観戦中ボールばかり追ってしまう人はいっぱいいる。でも、他の部分にも目を向ければ、もっと面白く観ることができるんです。サッカーの見方の教科書のようなイメージで作りました」

〈90分間で観るべきポイント〉という章がある。試合が始まったら確認したいのが「初期配置」と「アグレッシブさ」。そのチームのベースとなるフォーメーションと、例えば守備時の寄せの意識などだ。次に「4局面の振る舞い」と「配置の噛み合わせ」。「4局面」とは攻撃、攻撃から守備、守備、守備から攻撃時それぞれの局面のことで、ここの動き方もチームによって色が出る。そして、両チームが対峙したときに生じる数的有利、不利なエリアだったりにも注目したい。

林陵平さん

「チームとしての狙いを読み取るんです。攻撃なら、後方から丁寧に繋いでいくのか、ロングボールを使って縦に速く動かしていくのか。そのどちらを重視していて、それがどのくらい機能しているのか。ボールをただ蹴っているのと、狙いを持って届けようとしているのとではぜんぜん違う。海外サッカーはこのあたりの狙いが明確で、観ていて非常に面白い部分ですね」

 専門的な知識も学べる本書だが、まず述べられるのは「推しチームを作って週1で試合を観続けよう」「選手名鑑を使い倒そう」。

「やっぱり大切なのは、とにかく試合を観ること。それに、試合を観る前にぜひやって欲しいのが、選手名鑑を使って選手の名前と顔とポジションを一致させること。トップチームの試合では攻守で配置を変化させることが一般的で、誰がどこに動いたか、分かるようになるといいですからね」

 本書には〈各ポジションの役割と象徴する選手を知る〉〈現代サッカーの名将たち〉〈個人的に「推したい」選手と監督〉という章もあり、ガイドブックとしても読むことができる。

「いろいろなことを知った気になれる一冊です(笑)。でも、それでいいんです。間口の広い本にしたかったし、一家に一冊、置いておいてほしいですね」

はやしりょうへい/1986年生まれ。サッカー解説者、指導者。明治大学卒。2009年、東京ヴェルディ加入。10年に柏レイソル、その後モンテディオ山形などで活躍。Jリーグ通算300試合67得点。20年に現役引退。21年1月から23年12月まで東京大学運動会ア式蹴球部監督。著書に『サッカー 局面を打開するデキる選手の動き方』など。