着衣泳には水泳で学ぶ常識とは逆の知識が必要
――最近は気候変動で降雨量が急増し、線状降水帯も頻繁に発生するなど、水難事故のニュースが後を絶ちません。
岩崎 そう、水難事故や水害に見舞われたとき、生存を分けてしまうのが着衣泳なんです。着衣泳とは水難や水害の際に自分の身を守るための対処法です。水泳で学ぶ常識とは逆の知識が必要なんですよ。身体を動きやすくするため履いていた靴や洋服を脱ぐのではなく、靴や着衣、持ち物を浮力として活かして顔と足を浮かせる、背浮きと呼ばれる危機管理法です。
万が一、自分が溺れかけてしまった時だけでなく、溺れている人を見かけたときにどのように対処すればいいかなどを具体的に指導しています。
一人でも水で命を失う人が減るように
――着衣泳の普及活動は具体的にどのような形で?
岩崎 1990年代から小学校の授業などで、浮くことを重視した着衣泳の指導をやっていたみたいですが、今はそもそも授業で水泳をやる学校さえ少なくなってきています。その一方で、日本の溺死率は世界でも群を抜いて高い。昨年の全国の水難事故による死者・行方不明者は743名にのぼります(警察庁発表)。
それだけ日本人は、水に接する機会が多いと言えますが、だからこそ多くの人に着衣泳の大事さを知っていただきたい。水との良好な関係を築くためにも、水への正しい知識を習得して欲しいんです。
娘に手がかからなくなった数年前、日本スポーツSDGs協会と協力し、「着衣泳を広めるプロジェクト」を発足させました。学校や地方自治体、教育委員会などから要請を受け、出前授業のような形で活動しています。
特に地元の静岡県の教育委員会が熱心で、この夏にも小学校や中学校で、出前授業を行いました。全国展開する大手塾からも依頼がありますが、まだ、着衣泳の大事さ、必要性などはそれほど認知されていません。まずは静岡県で成功例を作り、いずれ全国的に広めていければと考えています。
私はプールで多くの人生を学ばせてもらった。だから、一人でも水で命を失う人が減るようこの活動を頑張っていきたい。それが水に対する私の恩返しですね。