無口で、ストイック、そして実直。銀幕の世界を長きにわたって支え続けた高倉健さんが亡くなって今年で10年を迎える。『高倉健の図書係 名優をつくった12冊』(角川新書)では、そんな高倉健さんの図書係を務めた谷充代氏から見た、昭和の名優の素顔が描かれる。
健さんはどんな本を読み、周囲の人々とどのように触れ合っていたのか。ここでは、同書の一部を抜粋し、筆まめだった彼がしたためた、ある1通の手紙について紹介する。(全2回の1回目/続きを読む)
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健さんからの手紙
健さんが誰にも気兼ねなく、ただ好きだったものとは、珈琲、ボクシング、都わすれの花、井上陽水の曲『少年時代』、そして手紙……。
人に手紙を書くことと人から手紙をもらうことが好きだった。
突然の健さんの訃報からすでに10年の歳月が過ぎた。この間、私は改めて健さんから頂いた手紙を読み直した。
昭和60(1985)年1月に映画『夜叉』で初めてインタビューをしてから健さんが亡くなるまで、30年の間に交わした私信は80通ほどになる。
語りかけるように綴られた言葉は、一度読むとずっと心に残り支えてくれる。
手紙でさえも名作だった。
ハリウッド映画の大作『ブラック・レイン』(1989)公開の翌年のこと。
当時、私は結婚も出産したことも、健さんには一切話していなかった。
娘が生まれて1カ月後、ビッグ・サプライズが起きた。
朝8時過ぎに玄関チャイムが鳴った。扉を開ければ顔なじみの配達員だった。
「お届けものです」
私は予想もしていなかった大きな荷に驚き、送り主を確認し、
「ウヒャ~! 嬉しい!」と悲鳴に近い声をあげた。