――たしかにそれは面白い作品に共通する要素ですね。独自の視点をもつ大切さを本書でも繰り返し強調されていますね。
取材で「常識が壊れる」瞬間を受け入れる
石井 目の前の事象のなかで、何にフォーカスして、どんなテーマ設定のもとで書くと、それまでの常識にはなかった新しい意味が立ち上がるか? そこを見極めるのが、AIにはできない人間の書く意味だと思っています。自分の眼で、「テーマの空白地帯」を見つけるのです。
ある事件でマスメディアが報じている一般的に流布したイメージや、特定のテーマに関する世間の常識……でもマスメディアが切り込めていない当事者に取材して本音を引き出すと、必ずそこからこぼれ落ちる様々な光と影が見えてきます。
例えば、足立区に暮らす両親が我が子をうさぎ用ケージに閉じ込めて死なせてしまった事件をルポしたことがあります。両親は堂々と「子どもを愛していた」と語っていました。子どもの虐待死という最悪な結果を招いているわけで、当然ながらひどく矛盾した言葉です。
しかし、彼女にとって愛するとは何だったのか? 愛していたのになぜこの家庭はここまで壊れてしまったのか? そこに踏み込むとき、「極悪非道なモンスターマザー」という世間のイメージを超えて、普通のひとりの母親をなにがそこまで追い詰めてしまったのか、家庭が孤立化するプロセスでなにが起きたのか、といった普遍的なテーマが見えてきます。
取材を通して常識が壊れる瞬間を、書き手自身が受け入れることが新しい視座をもつ出発点になります。
――確かに、すぐれた記事やノンフィクション作品を読むと、それまでの固定観念が壊されますね。
石井 それこそがノンフィクションを読む醍醐味です。とくに長めの文章や、書籍のボリュームでは「意味の変化」を起こす構成力がないと、説得力をもって伝わる作品にはなりません。本書では、リーダビリティ高く書くための構成の実践的スキルから、表現手法まで徹底的に掘り下げて解説しました。
私の朝カルの講座からは何人もプロの書き手が誕生しましたし、中には大きな賞をもらって映像化された方もいますが、そのような長年のノウハウを凝縮した初のスキル本です。自分の書くものを収益化したいという人はもちろん、趣味や業務で書いている文章をもっと説得力あるものにしたい、という方々にも広く役立てて頂けたら本望です。