ただし、酸化は必ずしも悪いことではありません。極端にいうと、最終的には紹興酒のように色がつき、醤油っぽい独特の味わいになりますが、お酒によっては「あえて寝かせて」味を変化させると味わい深くなる場合もあります。
味に角が取れたり、旨味が増したりと味が乗って美味しくなるものがあるのが、日本酒の面白いところです。熟成肉に旨味が出てくるのと同じイメージです。
もちろん酒蔵としては、出荷のタイミングが狙った味わいになるので、早めに飲んでほしいところですが、消費者としては自分好みに味を変化させる楽しみもあります。
私の飲み仲間には、あえて生酒を常温で自宅に置いて熟成させるツワモノもいます。また、酒屋でもあえて寝かせて熟成した秘蔵のお酒を持っているお店もあります。
まずは、自分で1本買ってみて、少しずつ飲みながら自身の好みの熟成具合を探ってみると、日本酒の楽しみが一気に広がるのではないでしょうか。
2000年代に起きた「磨き競争」の結果
日本酒と言えば、大吟醸という言葉が真っ先に浮かぶ人も多いでしょう。たしかに、大吟醸は日本酒における高級酒の代名詞であり、その繊細な香りとフルーティな味わいは、ビギナーから玄人まで幅広い人気があります。
しかし、「大吟醸が一番美味しい」という固定観念は、今や過去のものとなりつつあると言えます。なぜなら、現代の市場では多様なスタイルと味わいが求められている中で、大吟醸はどうしても味が近しくなるため差別化が難しくなってきているからです。
味を均質的にする最大の要因は、精米歩合です。玄米から50%以上磨いた米で醸した酒を大吟醸と呼びますが、米は磨くほど雑味がなくなり、クリアできれいな味わいになります。
どれだけ磨いたのかが1つの価値になり、アピールポイントとなるので、2000年代は各社がしのぎを削り、20%を切るものも登場をしました。
なかでも業界に大きな衝撃を与えたのは、新澤醸造店(宮城県)がリリースした精米歩合が1桁台となる7%の「残響」です。