同社はその後さらに0.85%まで削った「零響-Absolute0-」もリリースしています。2024年現在、売値は40万円以上の超高級な1本です。

持続可能な酒造りに挑戦する蔵も

1990年代前半に特定名称が採用されて以降、「大吟醸=良いお酒」という価値観が根づいていきました。しかし、磨けば磨くほど味わいとしての差別化が難しくなりました。

近年では米の磨きに対する考え方が変わり、あえて磨かないお酒づくりをする酒蔵も増えています。あまり磨かない米を業界用語で低精白(ていせいはく)と言います。精米歩合80%や90%がそれにあたります。

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クラフトサケを醸造する稲とアガベ(秋田県)は、食用米とほぼ同じ精米歩合90%のみでお酒づくりを行っています。すべて農薬や肥料を使わない自然栽培米を使用しています。

過剰に米を削ることによる食品ロスが発生することを避けるためで、持続可能な社会を目指すという考え方からです。

幅広い世代に支持されている「新政」の新政酒造(秋田県)も「低精白純米酒 涅槃龜(にるがめ)」をリリースしています。寺田本家(千葉県)の「五人娘 発芽玄米酒 むすひ」のように全く米を磨かない玄米の日本酒もあります。

「大吟醸だけ美味しい」時代ではない

米を磨かないからこそ、米を磨きやすい山田錦などの酒米に縛られなくなり、コシヒカリやササニシキ、つや姫など、食べるお米でお酒を造る酒蔵も増えてきました。先ほどの例で言えば、稲とアガベも食べても美味しいササニシキで酒づくりをしています。

「大吟醸は美味しい」はたしかにその通りですが、それだけでは日本酒の魅力を語り尽くすことができないほど、多様化が進んでいることがおわかりいただけたと思います。

ワインで例えるのであれば、この数十年はクリアな白ワインを追求する歴史でしたが、これからは複雑味のある赤ワインや自由な味わいのロゼを目指す時代になっていくと考えます。