コロナ禍後は入院患者といっても病院の外を歩いたりすることはできないが、コロナ前は病院の敷地内であればある程度自由に散歩することができた。転落現場となった非常階段付近は、坂井が日課としていた散歩コースだったようだ。スロープ状になっている非常階段に腰掛けていて、何かの弾みで後方に転落してしまったのだろうか。警視庁四谷署は事故と自殺の両面で捜査したが、死の真相はいまだに判然としない。

最後の最後までミステリアスだった歌姫

 振り返ると、坂井はミリオンセラーを連発しつつも、その生涯は最後の最後までミステリアスだった。「謎に包まれた歌姫」とも言われた。派手な振る舞いを避け続け、テレビなどメディアへの露出も控えた。ファンの前に初めて生の姿を見せたのは、デビューから8年後の1999年8月。アルバム購入者を対象にしたクルーズ客船でのライブだったといわれる。住まいも東京の都心でなく、郊外。人気が出てくるとおごりが見えてくるアーティストもいるが、坂井は違った。

しのぶ会に参列し、涙を見せる歌手の大黒摩季さん ©時事通信社

 さて、2022年11月、「天国から呼び出して飲みに行きたい昭和・平成のスターたち」という企画記事が『週刊朝日』に掲載された。1位は美空ひばり、以下は樹木希林(1943-2018)、志村けん、松田優作、忌野清志郎(1951-2009)、高倉健、渥美清。そして8位は同票で夏目雅子、尾崎豊(1965─1992)、そして坂井泉水だった。

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 坂井の歌に勇気づけられる国民はいまも多い。

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