『パラサイト 半地下の家族』(19年)が、非英語映画として史上初のアカデミー賞作品賞に輝いて、5年。「TIME」誌から「最も影響力のある100人」のひとりにも選ばれたポン・ジュノ監督の次回作には注目が集まっていた。
ようやく明かされたそのプロジェクトは、SFアドベンチャー映画『ミッキー17』。世界的スター、ロバート・パティンソンが主演するということでなおさら興奮は高まるも、23年の俳優と脚本家のダブルストライキの影響を受け、公開延期となっていた。
だが、批評家サイト「Rottentomatoes.com」で89%の好評価を獲得したことを見ても、待った甲斐はあったといえそうだ。エドワード・アシュトンの小説を原作にしながらも、ポン・ジュノらしいテーマ、社会的なメッセージはしっかり貫かれている。ただ、ポン監督によれば、それは「タイムリー」であるというより「タイムレス」だとのこと。
「この映画では、今起きているニュースやある特定の時に起きた出来事ではなく、歴史の中で何度も起きてきたこと、時代や場所が変わっても繰り返されていることに焦点を当てたかったんだ。『グエムル―漢江の怪物―』(06年)では、政府から何の手助けもしてもらえない家族を描いた。『スノーピアサー』(13年)も、力を持たない階層の人たちの話だった。『ミッキー17』も、そうだ。主人公ミッキーは何の権力も持たない男だ。社会は前進しているはずなのに、どうしてこの層がまだいるのだろうか? なぜここは向上しないのか? この映画を通じて、僕はそこを探索したかった」(ポン監督)
ミッキーは、ブラック企業のために何度も死んでは生き返ることを仕事とする、使い捨ての人間。伝えたいメッセージをより明確にするために、ポン監督は、キャラクター設定を変更した。タイトルを原作通り『ミッキー7』でなく『ミッキー17』にしたのも、ミッキーをあと10回死なせたかったからだ。
「原作で、ミッキーは、インテリの歴史学者として描かれていた。だが僕は、現代の若者、とりわけワーキングクラスの人たちに共感してもらえるようにしたかったんだ。原作小説とは、ワーナー・ブラザースと(ブラッド・ピットのプロダクション会社)プランBがオファーをしてくれたおかげで出会った。要約を読んだ時から強く惹かれたよ。なにせ、彼の仕事は、毎度死ぬことなんだから。それはすごく興味深い」(ポン監督)