大阪市で23日まで開催されたアジア映画の祭典「第20回大阪アジアン映画祭(OAFF)」では、タイ映画の躍進が印象付けられた。バラエティに富む7本の長編が上映され、完売回も続出。22日にはタイ映画としては初めてのSF大作『タクリー・ジェネシス』が上映され、監督が舞台挨拶に立った。同作はBLドラマで日本でも人気の俳優ワナラット・ラッサミーラットが出演したことでも話題だ。

監督(左)と出演のWar ©OAFF2025

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先史時代から200年後の未来までタイムリープで旅する

『タクリー・ジェネシス』は30年前に消えた父親を捜す娘ステラが、廃墟となった米軍基地に遺された謎の機械を操って、先史時代から200年後の未来まで、ゾンビや怪獣と戦いながら様々な時代をめぐるSFアドベンチャーだ。上映後に登壇したチューキアット・サックウィーラクン監督は語る。

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『タクリー・ジェネシス』

「撮影に1年、CGに2年をかけました。私は日本のアニメや漫画を見て育ったので、そこから多くのインスピレーションを受けています。出てくる怪獣の数は多くはないのですが、それぞれに深い意味を込めています。私が好きなものをこの映画に盛り込みました」

 ステラが最初のタイムリープで飛ぶのは先史時代。現在は世界文化遺産に指定されているタイ・ウドーンターニー県のバーンチェン遺跡に、まだ人が住んでいた時代だ。

タイムリープの瞬間 ©2024 NERAMITNUNG FILM CO., LTD. ALL RIGHT RESERVED

「バーンチェンは、今から5000年以上前の遺跡です。かつてバーンチェンに住んでいた人たちの痕跡はきれいになくなってしまって、実際にどうだったのかはわかっていません。この消えた人々に対する興味が、この映画を作るきっかけのひとつでした」

遺された米軍基地の謎

 ウドーンターニー県やバーンチェン地域は、川の中に住んでいるパヤナーンという龍神が現れたなど、不思議な伝説がいろいろある場所で、映画の舞台としてうってつけだったという。映画で時間を自由に旅することができるタクリー・ジェネシスの機械が遺されていたのは、ベトナム戦争時代に米軍が駐留していたラマスーン基地だった。米軍が何をしていたのかよくわかっていないこの基地も、映画の着想に大きく寄与したという。

動き出したタクリー・ジェネシスの装置 ©2024 NERAMITNUNG FILM CO., LTD. ALL RIGHT RESERVED

「私がラマスーン基地に興味を持ったことはこの映画を作り始める直接のきっかけでした。ラマスーン基地は、バーンチェンと同じウドーンターニー県にあるのですが、この基地に1960年代から70年代に駐留していた米軍は、ここで様々な実験をしていたのではないかと考えられています。タイにとって、ベトナム戦争の影響は大きなものがあります。現在に至るまで政治的な対立のもととなっていて、米国の置き土産はいまでも解決されていないと感じています」