大阪市で3月23日まで開催されたアジア映画の祭典「第20回大阪アジアン映画祭(OAFF)」で、もっともはやくチケットが完売した1本がタイ映画『おばあちゃんと僕の約束』(6月13日公開)だった。上映後には、演技経験ほぼゼロから本作の祖母役に抜擢されたウサー・セームカムさんが登壇。「世界でいちばん有名なおばあちゃん」の登場に、満員の会場は大いに沸いた。

©OAFF2025

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祖母にステージ4のがんが見つかって

『おばあちゃんと僕の約束』の英題を訳すと、「おばあちゃんが死ぬ前に何百万ドルも稼ぐ方法」(原題は「孫とおばあちゃん」)。ゲーム配信をすると言って大学を中退したのにダラダラした生活を送っている青年エム。彼には、ひとり暮らしの祖母メンジュ(ウサー・セームカム)がいた。祖母にステージ4のがんがみつかったとき、介護すれば遺産を残してくれるのでは……とエムが不純な動機をもったことから、始まった祖母と孫の同居生活。病気が進行するなか、次第に近づいていく2人と家族のこころを静かなタッチで描き出した作品だ。ラストには邦題にある「約束」が胸に迫り、まさに号泣必至である。

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 昨年公開されたタイで大ヒット。シンガポール、インドネシア、フィリピン、ベトナム、中国などアジア各国でヒットし、第97回アカデミー賞国際長編映画部門でタイ映画史上初のショートリストに選出された。

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 製作は『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017)などで知られるタイのヒットメーカー、GDH。パット・ブーンニティパット監督は、メンジュ役のオーディションで100人以上のベテラン女優に会ったが、これという人はいなかったという。そんな時に古いミュージックビデオに出演しているセームカムさんを発見。実生活で3人の娘と4人の孫がいて子育て経験も豊富なセームカムさんは、スクリーンテストでは孫エム役のプッティポン・アッサラッタナグン(愛称:ビウキン)との相性も抜群で、抜擢が決まった。そしていま、セームカムさんは世界で最も有名なおばあちゃんのひとりになった。

 3月23日、ABCホール(大阪市)での上映後に登壇したのはセームカムさんとプロデューサーのワンルディー・ポンジッティサックさん。

 セームカムさんは満員の観客を前にあいさつ。

「『おばあちゃんと僕の約束』で祖母のメンジュを演じているウサー・セームカムです。映画はもうすぐ日本で公開されますが、大阪の皆さんにお会いできて本当にうれしいです」

©文藝春秋

 全編を彩るピアノの調べについて、ポンジッティサックさんは、 

「作曲を担当したのはタイ人ですが日本人と結婚して日本在住の音楽家です。今回アップライトピアノを採用して、軽い雰囲気で軽い音で曲を作ってもらいました。これはおばあちゃんの家の隣の家から音楽が流れてくるという設定で、映画を邪魔しないような雰囲気の曲にしてもらいました。このピアノの音がおばあちゃんたちを見守っている、実際に映画を観た人が自分の家族のことを思うような効果があると思いました」