かつてのソニーにサイロはなかった
――ソニーに関する本書の分析については、どのように評価していますか。本書では、90年代末にソニーの社長へ就任した出井伸之氏が部門ごとのカンパニー制を採用したため部門間の壁が強固になり、サイロ(たこつぼ)にとらわれてしまったという見立てです。
著者が分析したような面はあったでしょう。しかし著者自身が書いているように、「サイロの問題を分析することと、その呪縛から逃れる方法を見つけるのはまったく別の話だ」(p.109)ということ。
経営者だった私からすれば、具体的な打開策を知りたかったのが正直なところです。とはいえ、それはジャーナリストの仕事ではありませんから、打開策まで踏み込んでいないことを理由に、この本を批判しようとは思いません。
30年前のソニーにはサイロなどありませんでした。それはなぜか。創業者である井深大さんと盛田昭夫さんが健在だったからです。
創業者が縦割りの弊害を意識していれば、サイロは出来ない。第6章「フェイスブックがソニーにならなかった理由」では、フェイスブックがサイロを作らないために様ざまな取り組みをしていることが紹介されています。しかし、あの会社は創業者のマーク・ザッカーバーグが社内を統率している。だからサイロが出来ないのです。
サイロを壊せるのは創業者だけ。創業者は異論があっても、「うるせえ、バカ野郎」と一言で黙らせることができる。大株主でもあるから、「いやなら出て行け」と言えるわけですよ。
ソニーでいえば、盛田さんの後をうけた大賀典雄さんがトップだった時代にもサイロはありませんでしたが、それも盛田さんがいたからです。盛田さんは経団連会長へ就任するべく経営のバトンを大賀さんに渡したけど、その背後でグループ全体に睨みをきかせていましたから。
私はソニー・ミュージックの社長を務めましたが、前任者からバトンを渡されただけ。社内には「オレと丸さんは同格だから、言うこと聞く必要なんてないよ」と思っている連中もいました。だから創業者のようにはいかないのです。
私に言わせると、企業にとってのサイロは、人間でいえば「がん」みたいなもの。私も8年前にがんになりましたが、がんは自分の細胞が変化するもので、老化のひとつのパターンですよ。だから人間、年を重ねれば、誰でもがんになる。会社もある種の生命体ですから、古くなればサイロができるのは避けられないと思いますね。
著者は創業者スティーブ・ジョブズが復帰したあとのアップルや、フェイスブックをソニーと対比させていますが、両社は人間にたとえれば少年期や青年期ですから、がんは発生しようがない。サイロがないのも、そういう理由ではないでしょうか。