映画『教皇選挙』を観ておいてよかった
帰国した今もなお、私があのような歴史的な場に身を置いていたことが、どこか夢のように思えてなりません。私の人生は、常にカトリックの教会とともにありました。岩手県で教会職員として働く両親のもとに生まれ、小さな頃から神父になることを夢見てきました。中学からは、名古屋のミッションスクールで寄宿舎生活を送り、大学で神学を学んだ後、レオ14世の出身地でもあるアメリカ・シカゴの学校に1年間留学しました。この時、寮の隣の部屋に住んでいたのがガーナ出身の神父さんだった縁で、彼の「お前も神父になったらガーナに来い」という言葉の通り、ガーナの山奥の教会で神父として働いたこともあります。
このガーナでの活動などをフランシスコ前教皇が知っていてくださり、昨年10月に枢機卿への任命が発表されたのですが、自分自身が枢機卿になるなんて、まるで予想していませんでした。任命されたことも他の方に「選ばれましたよ」と聞かされて知ったほどです。
そんな私が、まさか新しいローマ教皇を選ぶ「コンクラーヴェ(教皇選挙)」という重大な場に立ち会うことになるとは。「本当にこの場にいてよいのだろうか」と思わずにはいられない、緊張に満ちた数日間でした。おそらく生涯に一度の経験となるでしょう。このような場に立ち会うことを許してくださった神に、心から感謝しています。

「翌朝9時よりバチカンにて」
前教皇フランシスコ帰天の報せは、あまりに突然のことでした。
今年2月に気管支炎の治療のため入院されていたものの、3月には退院。亡くなる前日にもバチカンのサン・ピエトロ広場で行われた復活祭のミサに登場し、「パパモービル」と呼ばれる教皇専用車に乗って、大勢の信者たちを祝福していました。「回復しつつあるんだ」と、安堵した矢先の訃報でした。今にして思えば、ご本人は先が見えていたからこそ、無理をしてでも人々の前に姿を見せようとされたのかもしれません。
しかし、思い出にゆっくりと浸る間もなく、ジョヴァンニ・バッティスタ・レ首席枢機卿から「翌朝9時よりバチカンにて枢機卿総会を執り行います」という旨のメールが届きました。御年91歳のレ首席枢機卿は2001年から枢機卿を務める大ベテランですから、こうした急な事態にも慣れているのでしょう。しかし、今回のコンクラーヴェで投票権を持つ133人の枢機卿のうち、108人はフランシスコ前教皇に任命された新しい枢機卿で、私もその一人で昨年12月に枢機卿に就任したばかりです。
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