色や形を単純化した独特の画風で、猫や蟻を描いた洋画家・熊谷守一(くまがいもりかず、1880〜1977)。97歳で没するまで30年ほど自宅からほとんど出ず、文化勲章や叙勲を辞退したことでも知られる。晩年の熊谷を訪ね、評伝『いのちへのまなざし』を著した福井淳子氏が素顔を語る。
熊谷守一は、長く白い髭、風変わりなモンペに似たカルサン姿から「孤高の画家」「画壇の仙人」とも呼ばれました。
私が初めてお会いしたのは1960年代半ばのこと。母が経営していた銀座の画廊で熊谷作品を見て、誰にも似ていないその表現に興味を持ち、大学の卒論テーマに選んで、熊谷先生に話を聞きました。初めて会う先生はがっしりした体つきと、ものの芯を貫き通すような視線の強さで、とても80歳過ぎに見えませんでした。

あの鮮やかで生き生きとした作品はどのようにして生まれるのでしょうか。
ある時、先生が「退屈することはありません」と話されて、ハッとしました。
「毎日、この小さな庭を歩いても、毎日違う。突然、見知らぬ芽が出てきて、何だろうとその成長が楽しみになる。硬かった蕾がだんだん柔らかくなって明日はどうなるかとわくわくする。毎日毎日、発見があって、毎日、毎日が新しい」
そのように見つづけているなかで、「これ」と思う瞬間、即座に腰につけた袋からデッサン帳を取り出して素早くスケッチをされます。
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